年齢を重ねるごとにその魅力を増して輝き続ける俳優、佐々木蔵之介さん。昨年も連続ドラマ2本で主演を務めるなど、多数のドラマ、映画に出演する一方、自身のルーツでもある舞台に毎年出演している。2022年は2月に主演舞台『冬のライオン』が控えている。
本稽古に入る前の佐々木さんを訪ねて、演劇に対する思い、『冬のライオン』の魅力、俳優としての年齢との向き合い方、今後プライベートでチャレンジしたいことなどを伺いました。
舞台に立つことで、初心に帰る
毎年必ず演劇と向き合うことは、必要な時間だと語る。
「舞台に立つことは、体力もエネルギーも使いますし、しんどいし、キツイいんですけど。役者として、やっぱりそれを経て板の上に立たないといけないなといつも思っています。
僕は大学の演劇サークルから役者を始めて、そこがルーツでもありますし、芝居と格闘している時間みたいなものが大事なのかなと。
舞台は、1か月稽古をして、1~2か月の本番と、ひとつの作品に対して3か月間は少なくとも頭と身体を使うので。初心に帰るようなところもあるかもしれません。それから、直接、劇場でお客様と出会って、一緒に作品を作っていく、その時間はとても重要だと思います。緊張感や怖さもありますが、それに見合うものは得ているのかなとは思います」
作品選びで大切にしていることは──。
「出会いなのかもしれないですね。演出家との出会いのときもあれば、作品や役との出合いのときもありますし、定まってはいないのですが。『冬のライオン』に関しては、いちばん最初に演出家の森新太郎さんと何をやるかというところから始まりました。
森さんとは、2016年に『BENT』でご一緒して、2020年にパルコ劇場のオープニング作品のひとつ『佐渡島他吉の生涯』でまたご一緒するはずだったのが、コロナ禍で上演できなかったので、その後も次の作品についていろいろ話をしてきて。この作品は森さんから提案していただきました」
笑えるほどに激しく容赦のない言葉の応酬
『冬のライオン』は、1966年にブロードウェイで初演以来、映画化、テレビ映画化され、世界の名優たちが演じてきた歴史ドラマの名作。佐々木さんが演じるイングランド王ヘンリー二世とその家族が繰り広げる、愛と憎しみと欲望の人間ドラマだ。
跡目争い、領土紛争、王妃と若き恋人の確執……今日こそ決着をつけようと、王妃が、息子たちが、敵国の若き王が、愛妾(あいしょう)が、それぞれの思惑を胸に、クリスマスに王の城に集まる。権謀術数が渦巻く、高貴な人々の赤裸々な攻防が見どころ。
「戯曲を読んでみると、登場人物全員がお互いの腹を探り合って嘘しか言わないけれど、本当はその裏返しで、相手からの愛情を求めているのでは、というところに行きつく話だなと思いました。とにかく、言葉の選び方が無節操で、相手に対する配慮がなく言い過ぎているところが面白くて、逆に笑えるなと思ったんですよね。ヘンリー二世は私と同年代で、50歳を超えているにもかかわらず、老いる直前に精神的にも肉体的にも活力が急上昇していて、そこを楽しんでいる。
ほとんどを諦めてゆっくりのんびりしたらいいのに、お金も女性も土地も何も手放さない、すごい活力のある50代ですよ。僕はこんなしんどいクリスマスの夜は過ごしたくないですけどね(笑)。なぜわざわざ家族と戦わないといけないのかと思いますけど、それを楽しんでいるヘンリー二世を面白がりながら演じてみようと思います」
今作の登場人物は7人。共演には、葵わかな、加藤和樹、水田航生、劇団「柿喰う客」所属の永島敬三、浅利陽介、高畑淳子という実力派俳優が名を連ねる。特にヘンリー二世の妻を演じる高畑との、王と王妃の丁々発止の競演は楽しみだ。
「高畑さんとは、舞台での共演は今回で3回目になります。以前、ご自身のことを“私は翻訳劇女優”と冗談で言ってはったんですけど、日本人離れしたゴージャス感がありますし翻訳劇に合いますよね。さらにコメディもほんとに達者でいらっしゃいますから、今作でご一緒するのはとても楽しみです。決して難しい話ではないので、笑えるほどに激しく容赦のない言葉の応酬にご期待ください。今は海外旅行へも行けませんし、劇場で非日常の旅をしていただければなと思います」
人生の転機となった出来事
現在の佐々木さん自身の活力の素は「舞台にチャレンジすること」にある。
「今までやってきた舞台で、楽だったと思う舞台は一度もないですが、これからも、しんどいからやめておこうではなく、ある程度の冒険はしなきゃいけないと思っています。身体的には無理はしたくないなと思うし、無理は続かないという現実がわかったりもしますけど(笑)。でも、それに甘えちゃいけない、手を抜いちゃいけないとは思いますね」
これまでの人生を振り返って転機となった出来事を尋ねると、やはり演劇との出合いだった。
「今、この職業に就いていることを考えると、大学の演劇サークルというのが大きいです。神戸大学の『演劇研究会はちの巣座』に入って、そこから劇団『惑星ピスタチオ』に参加して。それまで、学部を農学部にしたのも広告代理店に就職したのも、すべて家業の造り酒屋・佐々木酒造のためだったところを、家業を継ぐのを家族に諦めてもらって、芝居を仕事にすると決めたときが転機ですね」
着々と家業を継ぐ道を歩んできた佐々木さんが、俳優になる道を選ぶという180度の転換。当時のことを「よく言うてるんですけど、僕自身も通常の冷静な判断をしていたら、この職業は選ばないはずなんですけど、どうかしていたんでしょうね(笑)」と振り返る。
「だからといって、すごく情熱を持って演劇をやりたかったのかと聞かれたら、わからないですけど、まだやめられなかった。やるという決断をしたというよりも、やめるという決断に至らなかった、というほうが大きかったかもしれません。選択が正しかったかどうかはわかりませんが、あのとき役者を職業に選ぶ決断をしたことを、よい方向にもっていかなあかんと思って、今までやってきました」
転機となった舞台作品については、2015年にひとりで登場人物20役を演じ、観客を熱狂させたシェイクスピア劇『マクベス』と、2014年の『スーパー歌舞伎II 空ヲ刻ム者-若き仏師の物語-』だと明かした。
「『マクベス』は、役をすべてひとりで演じる怖さを経験しました。また、スーパー歌舞伎に出演させていただいて、歌舞伎の約2か月の興行で毎日、昼と夜舞台に立ち、しかも、自分が主戦場としてきた舞台ではないところでやるという経験は、願ってもなかなかできるものではないので、そこはとても大きかったですね」
癒やしの時間と今後の夢
182cmのすらりとしたスタイルと、舞台の上でも躍動する高い身体性を維持する秘訣(ひけつ)は──。
「残念ながら、そこにはお金も時間もかけていません(笑)。でも、年に1回の舞台が身体測定みたいなところはありますね。舞台前は節制せざるをえないですし、日常のサイクルは舞台をやっているときほどよくなりますから。稽古の時間や本番の時間がきっちり決まっていて規則正しい生活を送れるので、そこで体調管理のバランスをとっています」
多忙な日々の癒やしの時間は、「家に帰ってからの晩酌」だそう。
「その晩酌を部屋でするのか、お風呂あがりにベランダで飲むのか……そんなことを考えているときがほっとします」
年齢を重ねていくために準備していることは「まだ何もない」と言うが、ひとつ夢を教えてくれた。
「今は、東京に住んでいますけど、実家は京都なので、京都に一部屋あればいいなとは思います。いつか住めたらいいなと思いますね」
最後に今後チャレンジしたいことを伺うと、プライベートな計画を話してくれた。
「小型船舶1級の免許を持っているので、海は無理でも湖くらいに船を出して釣りがしたい。まずは、船の出し入れをちゃんとやりたいなと思っています。その時間も作らないといけないなと。そんな程度です。すごい野望じゃなくて(笑)」
《PROFILE》
ささき・くらのすけ/1968年2月4日、京都府出身。劇団「惑星ピスタチオ」に旗揚げから参加し、’98年退団まで同劇団の看板俳優として活躍。その後、上京して本格的な俳優活動を開始し、テレビ、映画、舞台など多数の作品に出演。’14年には歌舞伎デビューも果たす。第17回読売演劇大賞 優秀男優賞、第47回紀伊國屋演劇賞 個人賞、第40回菊田一夫演劇賞 演劇賞、第38回日本アカデミー賞 優秀主演男優賞受賞。
近年の主な出演作は、【舞台】『マクベス』『ゲゲゲの先生へ』Team申第5回本公演『君子無朋~中国史上最も孤独な「暴君」雍正帝~』、【映画】『嘘八百 京町ロワイヤル』『生きろ 島田叡一戦中最後の沖縄県知事』、【TVドラマ】『麒麟がくる』『IP~サイバー捜査班』など。Amazon Original映画『HOMESTAY』が’22年2月11日よりPrime Videoにて世界独占配信スタート。映画『峠 最後のサムライ』の公開も控える。
◎公演情報
「冬のライオン」
作:ジェームズ・ゴールドマン
翻訳:小田島雄志
演出:森新太郎
出演:佐々木蔵之介/葵わかな、加藤和樹、水田航生、永島敬三、浅利陽介/高畑淳子
日程:2022年2月26日(土)~3月15日(火)
会場:東京芸術劇場 プレイハウス
公式サイト:www.thelioninwinter.jp/
0570-010-296(休館日を除く10:00~19:00)