“憧れの存在”と世界レベルのデッドヒート

──本腰を入れてRTAを始めたのは、おいくつくらいのときだったんですか?

 2018年だから、18歳のときです。大学1年生の夏休みから、RTAのプレイをしながら、同時に配信や解説動画の発信をはじめました。

──なるほど。解説動画の反響はありましたか?

 そうですね。正直、当初の解説動画はかなりつたなくて、観てくれる人も少なかったです。それを反省して「改善しよう」と。それで作成済みの動画を、アップする前に生放送で視聴者と一緒に見ることで、コメントをいただきながら修正することにしたんですね。

 そのかいあってか動画が見やすくなり、初の10万回再生を達成しました。視聴者の方々みんなで達成した10万回再生だと思っています。

 このころから『スーパーマリオワールド』も始めました。当時の日本人走者は、全部のコースを攻略する「96 exit」には、ほとんど手をつけていなかったんですね。一部のコースを攻略する「No Starworld(※1)」や「11Exit(※2)」というカテゴリは盛り上がっていたんですけど。

(※1 通称・星なし。先述した隠しステージには行かないカテゴリ)

(※2 「エンディングに飛ぶテクニック」など一部の技を除いて、ほかのテクニックは全て許可されるルール)

 そこで「誰もやっていないなら、自分が」と思って、あえて「96 exit」をやろう、と思いました。全部のコースをクリアするって「ロマンがある」と思ったんです。ただ実際、難易度が高いのは事実なんですよね。全部やると、プレイ時間が1時間くらい長くなるから。

 だから、ひとまずは「No Starworldから始めよう」と。当時の世界記録は日本人のヤポソンさんの32分56秒だったんですよね。ぶっちゃけ当時は「こんなん(速すぎて)無理でしょ」って思ってて(笑)。

 ただ、やり続けるうちに33分24秒、33分8秒って感じで、ちょっとずついい記録が出るようになったんです。

──すごい! 世界記録が視野に入ってきたんですね。

 はい。するとびっくりすることに、私がRTAを始めるきっかけになった、でいすいさんが「maiba、一緒に世界記録を目指そうぜ!」って誘ってくださったんですよ。私がでいすいさんの配信にコメントをしたら、お返事をくださったんですよね。

 正直「え、そんな世界記録を出せるなんて思ってなかったんだけど!」って感じだったんです(笑)。でも「尊敬するでいすいさんから誘ってもらえたし、頑張ってみるか!」と。

──おお! 熱い! 記録へのモチベーションが高まったんですね。

 そうですね。それで、ついに32分54秒の世界新記録を出せたんです。ただ、1週間後にでいすいさんが32分52秒を出して、あっという間に抜かれたんですけど(笑)。

──すごいデッドヒート(笑)。

 そうなんです。すごくハイレベルな戦いに参加できて、本当に光栄でした。ただそこで、でいすいさんの記録の抜き返しに挑戦するかというと、そうではなくて。私はあくまで「96 exit」をやるために「No Starworld」をやっていたので……。

──そこでブレるわけではなく、自分の目的に忠実というか……。

 あくまで自分がやりたいことを優先したかったんですよ。そこからは日本人がほとんど手をつけていなかった「96 exitt」カテゴリを主戦場にし始めました。

──そして「96 exit」でも世界2位の記録を出すというのがすごい。

 これは海外の方からのコメントが本当に大きかったと思います。海外の走者の方は詳しくて「ここを変えるともっと速くなるよ」っていうアドバイスをたくさんくださるんですね。「ここで英語使うんかい! ちゃんと学校で勉強しときゃよかった」っていう(笑)。

──中高生のときって「なんで英語も勉強するんや。俺ら日本人やん」って思いがちですよね(笑)。

 そうなんですよ(笑)。

 自分のスキルが高まるのはもちろん「このテクニック知っていれば日本全体のレベルが底上げされるな」って。いただいたアドバイスを「日本人走者にも伝えないと!」と思って、コミュニティや配信で発信するようにしました。

──なるほど。海外選手の技術がmaibaさんを経由して日本人選手にも伝わっていったんですね。具体的にどういった技を海外勢のプレイから知ったんですか?

 RTAではバグ技も使うんですけど、その知識が入ってきたことで、海外走者と同じレベルになれたんですよね。例えば「まよいの森」のコース2で使う「ヨッシーの角抜け」という技を日本人ではじめて実践したのは私です。

──どういう技なんですか?

 水中ステージの途中でタイミングよくヨッシーに乗ることで、なぜか壁をすり抜けてショートカットできる技です。

──なぜか(笑)。

 はい。なぜか(笑)。ボタンを押すタイミングで成功率が0%、25%、50%、75%と分岐するんですけど、調整しやすいので、基本的には75%で壁をすり抜けられるんです。これで10~20秒くらい速くなるから、かなり大きいんですよね。

 しかし、日本人でこの成功率の仕組みを知ってる人は皆無だったと思います。成功率0%もあるので、知らないと「絶対にできないバグ技」に挑戦していることになるんですよね。海外勢からなるべく成功率の高い状態ですり抜けられるコツを聞いて、日本人走者にも伝えなきゃ! と思いました。

──バグ技の仕組みを輸入したんですね。

 はい。マリオワールドにはこのほかにも、いろんな技があります。「ヨッシーの角抜け」は大技なので分かりやすいんですけど、RTAの上位クラスは「0.1秒の短縮技をいくつできるか」という世界なんです。だから、いまだに新しいルートが出続けているんですよ。発売開始から30年以上経っているのに、海外には今でも研究している方もいます。

──すごい。愛されているなぁ……。

 ですよね(笑)。プレイはしないけど、研究だけをし続けている方もいたりします。その研究者たちも「1ステージにおける人力での最速を求める人(通称「ワンステ」)」もいれば、「TASを作る人」「TASの技をRTAに落とし込む人」と枝分かれしていたり……。いや、RTAって深い世界ですよね。