令和でもファミコンをやり続ける22歳が語る「ハマるコツ」

──これだけ『マリオワールド』や『スーパーマリオブラザーズ3』をやり続けて、嫌になったりしないんですか?

 なります、なります(笑)。さっき「75%の確率で成功する」って言ったとおり、運も絡んでくるんですよね。それまですごくうまくいってたとしても、25%のほうを引いたときとか……。「俺、悪くないじゃん! もうヤダ!」って(笑)。

──それはきっつい(笑)。0.1秒の短縮を1時間以上考えながらプレイするって、かなり繊細でストイックな世界ですよね。ストレスもかかりまくっていると思うんですが、それでも辞めずにハマり続けていられるのがすごいなぁ、と思います。

 自分では「ハマり続けている」とは考えていないんですよね。確かに3歳のころから20年くらい、ずっとマリオをやっていますけど、中学・高校のときは「毎日やる」ってほどではなかったし……。

 いまでも「もう嫌だ」って思ったら、その日はコントローラーを持たないです。あと、忙しくてやる暇がないときも「無理してでもやるぞ!」ってこともないです。眠たかったら寝ますしね(笑)。

──なるほど。あくまで無理はしない。

 はい。自分のなかで大事にしているのは「楽しいって思えるときだけプレイすること」です。「あーもう嫌だ」って思っても、ちょっとたつと、またやりたくなるんですよ。

──なるほど。ほかのコンテンツに興味が移ったりはしないんですか?

 今後はどうなるか分からないですが、今のところは『スーパーマリオワールド』や『マリオブラザーズ3』がまだまだ楽しいですね。自分の動画を観ながら「さっきはなんで失敗したんだろう」って分析して、次に生かすのが楽しいんです。

──マリオのRTAは0.1秒の世界だから、いくらでも改善できるところがあるんですね。

 そうですね。だから「もうやり切った……」っていう「終わり」がないのかもしれないです。例えば、イタリアのLuiという走者がいるんですけど、彼はほとんどの走者が気にも留めないような0.1秒の短縮テクニックを、いくつも拾ってくる。こうしたプレイを観ると、毎回のように衝撃を受けて「まだまだ改善できるところがあるな」って。

──ライバルとの関係もあるんですね。世界一の記録を持っている走者として「意地」もあるんですか?

 意地はありますけど、正直いうと他人の記録には、あんまりこだわっていないんです。あくまで自分で目標を設定して、自分のなかで「楽しい」と思えるラインを大事にしています。

──「楽しい」という感覚を大事にするっていうのは「オタクであり続ける」うえで大切なことですよね。

 そうですね。私はゲームをやり続けるうえで大事にしている言葉があります。マリオではなく、『Beatmania IIDX』という音楽ゲームに入ってる「金野火織の金色提言」という楽曲の紹介文なんですけれど……。

金野火織の好きな「ソレ」には理由がない
金野火織の好きな「ソレ」は全て偶然に決まっている
金野火織の好きな「ソレ」に誇りを持てるかどうかは自分が決めることである
金野火織は今の自分を高める為にかつて自分が好きであった「ソレ」を決してけなさない
金野火織は自分で決めたい

引用:KONAMI「金野火織の金色提言」

 これを読んだときに「まさに私自身だな」と思いました。好きになるものに理由はなくて、直感で好きだったらそれが「ハマる」ということなんだろうな、って思います。私の場合はマリオが”ソレ”だったんですね。あくまで「偶然」好きになってしまった、っていう。

 偶然、祖父がマリオゲームにハマっていた。偶然、私がRTAの動画を観た。偶然、でいすいさんのプレイが心に刺さった……。だから、私がマリオゲームをし続けることに理由なんてないんだと思います。

──なるほど。ものすごくいい言葉ですねこれ。

 例えば、いま「何かにハマりたい」とか「趣味を見つけたい」って人がいたら「探すぞ」とか「見つけるぞ」という方向に行きがちだと思います。

 でも「ソレ」は子どものころから触れている身近なものかもしれません。探すだけでなく「振り返る」のもいいのではないでしょうか。

──で、あくまで「自分が楽しい」と思えるタイミングだけハマり込んで、嫌になったら潔く離れる……。仮にmaibaさんが「もうRTAやめてもいいかなぁ」って思ったら、どうしますか?

 そうですね。「やめてもいいかなぁ」と思っているのに続けても苦しいだけなので、やめると思います。あくまで、これからもマイペースに、好きなときに好きなことを好きなだけやっていくつもりです

◇    ◇    ◇

 maibaさんとの会話で特に印象的だったのが「休みたいときは気持ちに正直に、推しているものから離れる」という言葉だ。これは「何かを極める」うえで、とても大切だと感じた。

「離れている時間で思い出して無性にやりたくなる・眺めたくなる」という感覚は「心から推せるもの」を判断するためのフィルターである。逆にいうと、離れている間に「もうやらなくていいかなぁ」と思ってしまうのならば、それを推すことは難しい。

 ただ、オタクという生き物は「私はそれを好きでなくちゃいけない」と、いつの間にか自分に呪いをかけてしまうものだ。これはゲームだけでなく、アイドルやアニメ、マンガなどすべてに共通すると思う。本当は「ちょっと熱が冷めてきている」という感覚があったとしても「離れてしまったら自分の人生を否定することになる……」という気になってしまう。いつの間にか「ソレを推すこと」が、とんでもなくアイデンティティになっているわけである。

 だから、つい無理に自分をだましてしまうことがある。ただ「好きでもないものを追いかける」というのは、シンプルにストレスを感じ続けるだけだ。

 maibaさんは「疲れたら休む」「嫌いになったらやめる」と軽やかに言い放つ。「マリオワールドを世界一速くクリアできる男」という称号にまったく呪われていない。この「正直さ」や「マイペースさ」は「幸せなオタク」であり続けるうえで、とても大切なことなのである。

(取材・文/ジュウ・ショ)

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