妻との“報告会”を大事に。もし子どもに「俳優を目指したい」と言われたら──
現在は一男一女の父親になり、子育ての難しさを感じる毎日。子どもと接する中で心がけていることを聞くと、
「押しつけないようにすることと、全部はやってあげないことですね。やってあげないというのは案外、難しいもんです。例えば、子どもが小さいころって、食べたあとの食器の片づけにしても、親がやったほうが早いじゃないですか。だけど、こぼしても、落としてもいいから自分でやってもらう。もちろん、“こっちのお皿を上にしたほうがいいんじゃない?”とか、アドバイスはしますよ。でも、なかなかうまくいかないですね。人に何かを伝える難しさを、改めて感じました。
実際にこぼしちゃったりすると、“おい〜!”って言っちゃうこともしばしば。仕事が忙しいからって、自分に余裕がなくなっちゃうとダメだなぁと。そんな日は、子どもが寝たあとに、寝顔を見ながら“失敗したなぁ”と思うんです」
俳優という仕事は、地方ロケなどで長期間、家を空けることも多い。
「それに比べて妻は、子どもが学校に行っている時間以外はずっと一緒でしょ。それってすごく大変ですよ。毎日のように同じことを子どもに注意しても同じことを繰り返されて、そりゃあ疲れますよ。僕なんかは、仕事で家から出ることも多いから、ある意味、逃げ場があるようなものです。だけど、妻はそうじゃない。だから子どもが寝たあとに、“今日はこんなことがあった”とか、“あそこで怒りすぎた”とか、話し合うとまではいかないけど、1日のことを報告しあう時間は大切にしています」
もし、自分の子どもが俳優の世界を目指したいと言い始めたら? そう問いかけると、いやいや……と手を横に振る。
「“やめたほうがいいよ”とは言うかな。なかなかしんどいですもん、この職業は。まぁ、やめたほうがいいとは伝えますけど、“どうしてもやりたいんだ!”って言うなら、どうぞどうぞって(笑)。僕もそうでしたからね、もう何をやってもいいと思います。ただ、本当に大変だと思うからオススメはしないかな(笑)」
そんな世界に憧れ、実際に活躍を続けている高橋さんの、今後の展望とは──。
「展望なんて、そんなたいそうなものはありません(笑)。今回の初主演もとてもありがたかったですが、“こういうドラマがあります、映画があります、どうですか?”って呼んでいただけるのなら、“僕でよければ”という気持ちですね。そのうちセリフも覚えられなくなったら、自分から、“すいませ〜ん、医者から1行以上あるセリフは止められてるんです〜”なんて言って辞退しますよ(笑)。
ただ、この仕事をしていて若い人に現場で会うと、たくさん刺激をもらえるんです。続けていくと、自分が思っていた以上に新しい出会いがある。そこから付き合いが始まって、広がっていく。それが面白いですね。だから年齢がどうとかっていうのは意識せずに、呼ばれたらどこへでも行くことにしています。僕はきっと、これからもずっと、このまんまだと思います」
(取材・文/高橋もも子)
【PROFILE】
高橋克実(たかはし・かつみ) ◎1961年生まれ、新潟県三条市出身。高校卒業を機に上京し、憧れの東京生活へ。小劇場で活動しながら、30代半ばまでアルバイト生活をしていたが、'98年からスタートしたドラマ『ショムニ』シリーズ(フジテレビ系)でブレイクして以来、コンスタントに作品に出演し続けている。俳優以外にも『トリビアの泉〜素晴らしきムダ知識〜』『直撃LIVEグッディ!』(ともにフジテレビ系)の司会を務めるなど、マルチな才能を発揮。'22年10月14日に全国公開される映画『向田理髪店』で、映画初主演を務める。