放送中の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』はいよいよ佳境に入り、舞台『ショウ・マスト・ゴー・オン』(同作品に出演する秋元才加さんインタビュー記事はこちら)が間もなく上演スタート。映画監督やエッセイストとしても活躍する脚本家・三谷幸喜さんの多才ぶりはあらためて説明するまでもないでしょう。
さて、過去の三谷ドラマに何度か出てきた「赤い洗面器の男」というネタがあります。初出はドラマ『警部補・古畑任三郎』で、ラジオのパーソナリティ・中浦たか子(桃井かおりさん)がこんな小咄(こばなし)を語りだすシーン。
「ある晴れた日の午後、道を歩いていたら向こうから赤い洗面器を頭にのせた男が歩いてきました。洗面器の中にはたっぷりの水。男はその水を一滴もこぼさないでゆっくり歩いています。私は勇気をふるって、“あなたどうして洗面器なんか頭にのせて歩いてるんですか”と聞いてみました。すると男は答えました。……この話の続きは番組の最後に」
ですが時間が押したため、たか子がオチをしゃべる前に番組は終わってしまうことに。「赤い洗面器の男の話」はその後も古畑シリーズの他の回やドラマ『王様のレストラン』でも劇中のキャラクターによって語られ、今度こそ答えがわかるかもと期待させながら、必ず邪魔が入ったりオチの内容を忘れるなどして、話がこれ以上先に進むことはありません。
最近、連続ドラマの感想などで「伏線回収」という言葉をよく聞くようになりました。ストーリーが進むにつれて前半部分の謎が解明される展開が、高評価につながるような傾向すら感じます。もともと三谷さんの作品は丁寧な人物描写や緻密に練られたストーリー構成が、劇的な結末につながるのが大きな魅力。とはいえ、あらゆるドラマに伏線回収ばかりを求めると、見る側も頭を使いすぎて(?)窮屈な気がします。
赤い洗面器の男は何と答えたのか気になりますが、回収されない伏線があってもいいと思いませんか?(純)