’80年代、『不良少女とよばれて』『スクール☆ウォーズ』などの大映テレビドラマで一世を風靡(ふうび)した松村雄基さん。眼光鋭い不良少年役で多くのファンを魅了したイケメン俳優も、今年で俳優生活41年目を迎えた。当時と変わらぬスタイルに渋さが加わり、俳優また歌手として精力的に活動している。
現在、ミュージカル『ソーホー・シンダーズ』に出演中の松村さんに、「58歳とは思えない若さの秘訣(ひけつ)」「若い俳優たちと共演して感じること」「人生最大の転機」「いま大切にしている思い」などをじっくりと語っていただきました。
40代まではなかったことが起こる
会ってまず驚かされたのは、58歳という年齢を感じさせないスタイルのよさと若々しさ。いったいどのようにキープしているのか……。30代から続けているという驚きの生活習慣を明かしてくれた。
「基本的には毎朝4時に起きます。それで30分くらいストレッチをして1時間くらい走っています。今も舞台公演中ですが、商業演劇だと昼公演は午前11時開演が多いんですね。そうすると9時には楽屋に入らないといけない。そのためには8時前には出かけるので、食事をしたりシャワーを浴びたり、ちょっとゆっくりする時間もほしいなと逆算していくと、自宅を出発する4時間前には起きるというのが自分のルールになりまして。
今の時期は真っ暗ですけど夏場は4時半だと明るいので、人があまりいない中を走るのは気持ちがいいですよ。そのランニングが、まあ体力づくりのメインですね。あと時間があるときは、自宅で腕立てとか主に自体重を使った筋トレをしています」
毎晩遅くとも12時くらいにまでには就寝。
「睡眠時間4時間で走るのは逆に身体によくないってみんなに言われるんですけどね(笑)。でも雪が降った日は走らないので、泥のように眠って、ぜんぜん起きない。月に1~2度そういう廃人になる日を作るようにしています」
そんなストイックな生活を送っている松村さんにも、50代の壁は訪れて。
「自分には50肩なんてないと思っていましたけど、ある日突然、やっぱり肩が上がらなくなって。ひざとか思いもよらないところが痛くなったり、もう身体のあちこちが痛い(笑)。40代まではなかったことが起こるようになった。
だからこそ、自分の身体は誰も面倒みてくれないんだから、自分で鍛えて自分でいたわるしかないと痛切に感じるようになりました。少しでも早いうちから体力づくりを始めておいてよかったなって思います」
誰がどう思おうと、自分の気持ちに正直に
「気持ち的には、どこの現場に行ってもだいたい最年長なので、昔のように先輩とかに甘えることができなくなっちゃったのが、ちょっと寂しいなって思います(笑)。かといって、僕はしっかり後輩のことを受け止めるようなタイプでもないので、みんなとわちゃわちゃやっているほうが、よかったりするんですけど。周りの見る目は、“もっとしっかりしてくれよ”って気持ちでしょうね。
でも、昔、先輩方が声をかけてくれたように“何か困ったことがあったら言えよ?”なんて、僕からはなんだかおこがましくて言えなくて。共通の話題も見つからず、あっちも声かけづらいだろうし……。それで結果、仕事の話以外しゃべらないっていう時間になる(笑)」
とは言いつつも、ミュージカル『ソーホー・シンダーズ』の地方公演中、58歳の誕生日を祝ってもらうなど、後輩のキャストやスタッフともいい時間を過ごしている。
「(松岡)充が中心になって、みんなでお祝いをしてくれてすごくうれしかったです。今作もそうですが、舞台で若い俳優たちと共演して感じるのは、みんなすてきで素晴らしいということですよ。芝居も歌も踊りも、僕が同じような年ごろにはこんなことできなかったと、感心することばかりで、すべてにおいて刺激をもらっています」
ミュージカル『ソーホー・シンダーズ』は、童話『シンデレラ』を下敷きに創作された物語で、ロンドンの街ソーホーを舞台にした現代版シンデレラ・ストーリー。いじわるな義理の姉妹にいじめられながら日々つつましく暮らす青年・ロビー(林翔太)と、彼の恋人でロンドン市長選の候補者であるジェイムズ・プリンス(松岡充)の真実の愛と、2人を取り巻く人々の多様でバイタリティーあふれる生きざまを生き生きと描きだす。
松村さんは、主人公のロビーに恋する、貴族のベリンガム卿を演じている。
「(林)翔太が演じるロビーもとにかくすてきで、ピュアで明るくて子犬のようで……ベリンガム卿が惚(ほ)れてしまうのはわかるよなって(笑)。
このミュージカルは楽曲が素晴らしいんですよね。物語の後半で、ロビーが彼の友人でシングルマザーのヴェルクロ(豊原江理佳)の元を去ってしまったときに、江理佳が短く歌う『普通になりたい』のリプライズがとても切なく、稽古場でも本番でも何度も涙してしまいました。翔太のソロ曲『ガラスの靴はどこにもない』も、心をわしづかみにされます」
誰もが知る童話を下敷きに、性的マイノリティーや政治の問題も盛り込み、その社会性も高い評価を受けている今作。観客に何が伝わればいいと思うか尋ねると。
「“誰がどう思おうと、自分の気持ちに正直に生きたほうがいいんじゃない?”って、この作品は問いかけているのだと思うんですね。タイトルの『シンダーズ』には『灰』という意味もあって。真っ白でもなく真っ黒でもなく、いろいろなグレーゾーンの人たちが多様性を認められて、自分たちの生きたいように生きられる世の中がいいね、というエールを送っているようなところがあると思います。
全員がハッピーエンドではないけれど、登場人物みんなのすてきに生きた時間を見ていただいて、“ああ、いろんな生き方があるな”と楽しんでいただければいいですね」
アマゾンでの野宿よりもキツかった
改めて58年の人生を振り返って、転機になったと思えることは「大映テレビのドラマに出演したこと」だと即答する。
「もう亡くなられてしまいましたが、春日千春プロデューサーにキャスティングしていただいて、1984年に『少女が大人になる時 その細き道』に出演したのが最初です。二十歳(はたち)のときですね。
最初のころは何をやってもダメで、監督から現場でとにかくけちょんけちょんに怒られたんです。もちろん、いまでは監督の言うとおりだったと思うんですが、当時の僕はスタッフは敵だと思っていましたからね。誰も仲間はいないと思っていて、共演者にも“おはようございます”と“お疲れさまです”のあいさつしかしなかった。一匹オオカミ状態でした」
“おまえなんか役者じゃない、帰れ~!”“声の届くところにいろ~!”“じゃまだ~!”と、監督から怒鳴られ続けて、理不尽だと怒りを感じることもあった松村さんだったが、2か月にわたる撮影が終わりに近づいたころ、その思いが変化する出来事が。
「解釈のわからないセリフがあって、思いきって監督に直接聞いたんです。“そんなこともわからないのか!”と言われるかと思いきや、違ったんです。演出プランやセリフの意味を調べた書き込みがびっしりの台本を見せてくれて、“正しいかわからないけど参考にしていいよ”って、紳士的に話してくれて。監督の情熱をそこで見たんです。怒鳴るだけのおっさんじゃないんだって(笑)。それからは逆にかわいがってくれるようになって、何本もの大映ドラマでご一緒させていただきました。
思い返しても、監督のその厳しさがあって、なにくそこの野郎と思っていた気持ちが、当時の役にぴったりだったんですよ。それを春日プロデューサーが気に入ってくださって、『不良少女とよばれて』『スクール☆ウォーズ』『乳姉妹』『ポニーテールはふり向かない』と、足かけ10年間、大映ドラマに出演させていただきました。ああやって過ごした時間があったから今があると思います」
中でも続編や映画版が作られたほどブームになったのが、1984年10月~1985年4月に放送された『スクール☆ウォーズ』。不良少年や落ちこぼればかりが集まった、高校ラグビー界で無名の弱小チームが、ひとりの教師の赴任により数年で全国優勝を果たすまでの軌跡を描いた感動の青春ドラマだ。
山下真司が熱血教師を熱演し話題に、また麻生未稀が歌った主題歌『ヒーロー』がヒットするなど、大ヒットした。松村さんは、不良生徒だが実は母親思いで優しいラグビー部員・大木大助を演じた。撮影でいちばん苦労したことは「寒さだ」だったと振り返る。
「とにかく寒かった。あの寒さには鍛えられました。朝6時とかに集合して撮影なんですけど、屋外で短パンに着替えてグラウンドに行くと霜柱が立っているんですよ。そこに汗用の霧吹きの水を用意してくれているんですが、氷水になってるんです。その氷水をメイクさんに“汗つけます”って全身に噴きかけられて、信じられないくらいの寒さの中で朝から晩までやってました。ラグビーシーンのときは身体が温まるからいいんですけど、普通の芝居をしていると、もうとにかく寒くて。当時、僕ら若手はなかなか暖(だん)に当たることはできなかったのでつらかったですね。
あの『スクール☆ウォーズ』の寒さに耐えられたんだから、どんなことも“これくらいなんてことない”って、今までやってきました(笑)。アマゾンに行って3週間野宿したこともありますけど、それよりもキツかったです」
今、人生で大事に思うこと
松村さんが50代に入ってから取り組んでいることのひとつに、シャンソンがある。
「ソワレというシャンソン歌手がいるんですけど。彼が以前、経営していたライブハウスでライブをやらせてもらったときに僕のライブを見てくれて、“シャンソンを歌ってみませんか?”と声をかけてくれたんです。何曲か僕に合いそうな曲を紹介してくれたので歌ってみたら、とてもハマったんです。ずっと語るように歌う歌が多くて、“ああ~なんかこういうのいいな~”と思って。
僕はそれまでロックっぽい歌ばかり歌ってきたのですが、僕もファンの人も年齢を重ねてきて、そういう方たちに聴いてもらうにはどんな曲がいいのか考えていたところに、ちょうどいいタイミングでソワレがすすめてくれたというのが、シャンソンを歌うようになった大きなきっかけですね。でも、シャンソンは本当に奥が深いです。これからも機会が与えられるならば、自分の表現のひとつとしてチャレンジしていきたいと思っています」
12月26日にソワレが行う『~ソワレが唄う~幻の越路吹雪ロング・リサイタル 2021~』へのゲスト出演も決定している。
「今回は、特に気に入っている『ラ・ボエム』『サンフランシスコの6枚の枯葉』『そして今は』ほか全部で5曲を歌わせてもらいます。実は、僕の誕生日の11月7日は越路吹雪さんのご命日で、シャンソンにはあさからぬご縁を感じている次第です」
最後に、今、人生で大事に思うことを聞くと、松村さんのまじめな人柄をうかがわせる答えが返ってきた。
「僕が今こうやって役者をやっているのは、14歳のときに今の事務所の社長にスカウトされたことが始まりなんです。もう44年くらいお世話になっていて、親みたいなものなのですが。ちょっとカッコつけて言うと、その人の笑顔が見たくて続けさせてもらってきたんです。
僕に夢をかけてくれた社長が86歳のいまも事務所に行って働いてくれているので、もっと笑顔にするためにやっていきたい。
同時に、支えてもらった制作スタッフ、ファンのみなさま、共演者の方々への感謝の気持ちを持って、命ある限り精いっぱい頑張ることですかね。何のために頑張れるかっていったら、それだけだな。社長とお世話になった人が少しでも喜んでくれたらいいなって。それがいちばんのモチベーションですね。本当にうそ偽りなく(笑)」
(取材・文/井ノ口裕子)
※関連写真ページでその他の写真もお楽しみください。
《PROFILE》
まつむら・ゆうき ◎1963年11月7日、東京都出身。1980年、ドラマ『生徒諸君』で俳優デビュー。’80年代に放送された『不良少女とよばれて』『スクール☆ウォーズ』など大映テレビドラマの常連俳優としてブレイク。30代からは舞台にも活躍の場を広げる。現在も多くの舞台、映画、ドラマに出演するほか、歌手としても活動。12月26日(日)東新宿Petit MORにて17時開演の『~ソワレが唄う~幻の越路吹雪ロング・リサイタル2021~』出演。【シン る・ひま】オリジナ・るミュージカ・る『明治座で逆風に帆を張・る!!』(12月28日~31日[うち30日、31日のみ]、明治座)出演。
ミュージカル『ソーホー・シンダーズ』
(東京公演:2021年11月25日~12月12日、紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA)
音楽:ジョージ・スタイルズ
歌詞:アンソニー・ドリュー
脚本:アンソニー・ドリュー&エリオット・デイヴィス
翻訳・訳詞:高橋亜子
演出:元吉庸泰
音楽監督:大嶋吾郎
振付:原田 薫/赤澤かおり
出演:林 翔太、松岡充/東山光明、綿引さやか、西川大貴、豊原江理佳、菜々香、青野紗穂/水 夏希/松村雄基
〈公式HP〉https://www.soho-cinders.jp/
〈公式Twitter〉@soho_cinders.jp