光る刀を片手に、相手の動きを読み、颯爽(さっそう)と向かっていく。昔、夢見た、かっこいいサムライやヒーローに誰でもなれてしまう、そんな次世代のデジタルスポーツ「SASSEN/サッセン」という競技を知っていますか?
近年、注目を集めるデジタルスポーツの中でも「一度体験したらハマる!!」と話題のIT技術とチャンバラを融合させた新競技。ルールがシンプルなことに加えて、誰でも、どこでもできるという気軽さもあって、2006年の誕生以来、競技人口も増え続けています。今回は、そんなサッセンの東京・秋葉原で行われた体験会&公式戦に初挑戦してきました。初心者でもすぐに楽しめるという競技だそうですが、初体験の日に初公式戦……。果たして無事、出場できるのでしょうか。
SASSEN(サッセン)とは?
2006年に福岡県北九州市の武術道場で生まれたサッセン。以前から、道場では、護身術として、やわらかい棒を使って逃げたりたたいたりという練習を行ってきたといいますが、これこそがサッセンの原型なのだそう。人を傷つけず、ケガをさせない武術を追求した結果、生まれた競技なのです。サッセンという名前の由来は、「颯爽と風を切るさま」=「颯然(さつぜん)」から名付けられたといいますが、その名のとおり、まるでライトセーバーのようなセンサーが搭載された刀(サッセン刀)を片手に、颯爽と得点を取る様子は、見ているだけでも爽快感バツグン。思わず身体が動き出してしまいます。
それぞれのサッセン刀にはセンサーが付いていて、どちらが先に刀を相手に当てたのかを、アプリで判定できるシステムになっています。つまり、審判は“スマホ”。
公平なジャッジができるので、見ている側もプレイヤー側も気持ちよく試合にのぞめるというところも魅力のひとつです。
サッセン刀、プレイヤー2人、そしてスマホさえあれば、年齢や性別、障がいの有無にかかわらずどこでも、誰でも気軽に楽しめるという、新世代のユニバーサルなスポーツです。
参加者の層も幅広い! SASSEN体験会に潜入
体験会&公式戦の会場は、秋葉原駅から徒歩5分ほどのところにある「A-LABO(エーラボ)」。20名ほどがそろったところで、体験会は、和やかにスタートしました。この日の参加者は小学生の男の子から60歳のアメリカ人男性まで老若男女さまざま。中には私と同じように初めて体験するという人もいました。
まずは、全日本サッセン協会会長の本村隆馬(もとむら・りゅうま)さんから簡単な説明を受けた後、参加者同士でペアを組み、ポリエチレン製の練習用刀でウォーミングアップ。相手が打ってくる刀を避けたり、当たる感覚を体感したりと、基本動作を学んでいきます。
サッセン初体験の私がペアを組むことになったのは、レジェンドの風格を漂わせるアメリカ人男性のPhillip氏。聞けば、御年60歳で、1年ほど前に初めてサッセンを体験してから、すっかりその魅力にハマったそう。それ以来、何度もこの場所を訪れ、すでに公式戦で優勝の経験もあるという強者(つわもの)でした。
長い手足から繰り出される素早いスイングは、私のガバガバなディフェンスをものともせず幾度となく命中。「ビシバシ決めちゃうぞー!」と意気込んでいた、先ほどまでの自分を思わず呪いたくなりました。
1時間ほどウォーミングアップは続き、ビーチフラッグのような簡単なゲームなどを通して、日常ではほとんど使うことのない瞬発力を少しずつ目覚めさせていきます。
サッセン刀はやわらかく、当たっても痛くないので、怖さはゼロ。コツなどを教えてもらいながら、参加者たちとも会話が弾みます。そうこうしているうちに、あっという間に、試合が始まるとのアナウンス。1時間前まではサッセン刀に触れたこともなかった私も選手として団体戦、個人戦に挑戦することになりました。
審判はスマホ! SASSENのルールを知る
サッセンのルールはいたってシンプル。5m×7mの限られたスペースの中に入り、1対1で戦います。試合の最初と最後は相手に一礼。礼に始まり礼に終わるというところも日本らしさを感じます。対戦時間60秒の間に、センサー付きのサッセン刀を相手の身体に当てて、2本先取したほうが勝ちとなりますが、特徴的なのは、1試合の中で、刀を振る打数が制限されていること。5スイングという限られた打数の中で勝負をしなくてはいけないので、頭脳戦の一面もあるところもまた面白いポイントです。
むやみやたらに振り回して戦うということもないので、小さな子どもでも安心して挑戦することができます。
判定はすべてスマホアプリで行い、相手の身体に当てると、通常は青く光っている刀が赤く光り、ポイントが入ったことを教えてくれます。ちなみに、0.025秒以内の相打ちは、鍔迫り合い(つばぜりあい)となって、どちらもポイントは入りません。場外に出てしまったら相手に得点が入り、頭などを攻撃することも反則です。同点の場合は延長戦となりますし、5スイングすべて終わってしまったら、受けの姿勢のみで、相手が5スイングするのを耐えるか60秒経過するまで試合が続行されます。
いざ、初めての公式戦へ
まずは、3人1組の団体戦がスタート!
トランプでグループ決めをした結果、男性と初体験らしきかわいらしい女性とチームを組むことになりました。
最初こそ緊張していたものの、周りの参加者の皆さんが子どものように楽しんでいる姿を見ているうちに、不安な気持ちもどこへやら。初体験の日に初公式戦出場というシチュエーションをすっかり楽しむほどにまでなっていました。
いよいよ私たちの順番となり、会場の真ん中へと進みます。相手のチームをちらりと見ると、全員強そうな男性たちが……! 試合開始前から弱気になりかけましたが、それでももう後には引けません。チーム内でじゃんけんをして順番を決め、私の出番は2番目。一礼をして、いよいよ初公式戦の幕が切って落とされます。
まず最初に戦ってくれたチームメイトは、初体験らしき女性。「こわいー!」と言いながらも、しっかり得点を決め、2対2という同点の状態で、私の出番に……。
託されたサッセン刀は軽いはずなのに、重く感じます。
実際に相手を前にしてみると、想像していたようには動けず、近づくことも離れることも難しい。その結果、同じ場所でひたすらピョンピョンするという謎の行動をするはめになってしまった私。次の一手を考えているうちに、相手が素早い1本を放ちます。これが私の右足にヒット。何もできないまま、1点を取られてしまいました。
体感的には、「まずい!」と思った時にはすでに「ポンッ」と点を決められているという状態。頭と身体が、地球と宇宙なのかというほどの時差を感じさせ、情けないやら悔しいやら、楽しいやら。
それでも、一瞬のスキを狙って、1点を取りにいくしかないのです。
その後、相手が私の刀に自分から当たってしまったという形で、棚ぼた的に1点を取ったものの、思い描いていた「颯爽と得点を取る」というものとはほど遠い結果に。
憧れのヒーローには、そうそう簡単にはなれないものだよと自分を慰めながら、席に戻りました。
1本取りたい! 悔しい気持ちが生まれた時、楽しさを感じる
団体戦は2回戦に勝ち進んだものの、練習を重ねてきている選手の皆さんを前に、苦戦of苦戦。
相手は5スイングしてしまったため、受けの態勢しかとれないというこちらに有利な状況にもかかわらず、面白いように手も足も出ないのです。
でも、時々、初心者でもポンッと1本が決まることもある。それが何より楽しいのです。
私たちのチームも何回か1本を取ることはできたものの、着実に点数を奪われ、2回戦敗退。
「悔しい気持ち」が「とんでもなく楽しい」に変わる。サッセンにハマる人たちの気持ちがよくわかった瞬間でした。
ちなみに、サッセンは、競技だけでなく、サッセン刀のセンサーを生かしたレクリエーションも楽しむことができるそうで、団体戦と個人戦の合間に体験することができました。
この日、体験したのは、2グループに分かれて対決する、サッセン刀をスイカに見立てた「スイカ割り」とサッセン刀を手に当てずに進めていく「イライラ棒」。子どもの頃にクラスの友達としたような遊びに思わず、大人も子どもも大はしゃぎの時間でした。
レクリエーションを挟んで、今度は個人戦へとプログラムは進んでいきます。
1回戦は、ストレートにパンッポンッと2本を決められ、さくっと負けてしまったのですが、2回戦はギリギリのところで2点を先取し、初めて勝つことができました。
公式戦に何度も出場している選手の方や剣道経験のある女性の方など、さまざまな人たちと対戦する中で、いつしか「怖い!」という気持ちが「必ず1本決める!!」という気持ちへと変化。
なかなか、思ったように身体は反応してくれないものの、動きのコツなども少しつかめるようになってくると、あらゆることが楽しいと感じるようになって「もっと強くなりたい!」という気持ちが湧き上がります。
すべての試合を終えてみると、この日、個人戦で優勝したのは、ウォーミングアップの時にペアになったあのPhillip氏。
試合終了後、「サッセンは集中できるところが好きなんだよ」とチャーミングな笑顔で答えてくれました。
初の全国大会も開催予定! SASSENのこれから
一人ひとりが思い描く理想のスタイルを追求して、練習をする姿は、まさにアスリートそのもの。初めて体験したサッセンは、日常を忘れさせてくれるようなエンターテインメント性と、心と身体を研ぎ澄ませ、得点を狙うというスポーツ競技としての魅力にあふれていました。
月に2回ほど行われているというこのような体験会や公式戦には、SNSやメディアなどを通してサッセンを知ったという人たちが、毎回多く訪れているそう。その注目度の高さも話題のサッセンですが、会長の本村さんは「まだまだこれから」と語ります。
常にアップグレードさせてきたというサッセン刀も、光り方やセンサーの精度、充電方法など、まだまだ改善すべきところがあり、これからも進化させていく予定なのだそう。
現在、サッセンは九州や東京以外にも、大阪や富山など各地に体験できる場所が広がってきているそうですが、本村さんが描く目標はあくまでも「47都道府県、すべてでサッセンを体験できる」という状態にすることだといいます。
思いついたらふらっとサッセンをすることができる、そういう環境を整えるために日々奮闘を続けています。
2022年10月31日には、初の全国大会も開催される予定で、すでに多くの参加者が名乗りをあげているそう。どんな人が初の優勝に輝くのか、今からとても楽しみです。
サッセン刀を持てば、肩書も立場も関係なく、誰もが自ら思い描くヒーローになることができる。世界中のあらゆる人たちを巻き込み、カルチャーとして根づく日ももうすぐかもしれません。
(取材・文/茂木雅世、編集/福アニー)
【Information】
●SASSEN/サッセン
サムライの真剣勝負を現代に再現。光る刀はBluetoothでスマホと連動し、どちらが早く当てたかをアプリが判定。大人数レクリエーションも! 全国出張体験会受付中。