「東北のみんなさ、いい事いっぺ来い来いどーんと来い!」
東北を代表する歌姫と言えばこの人、音楽集団「上々颱風」(シャンシャンタイフーン)のボーカリストとして知られる白崎映美さんだ。山形県出身の白崎さんは東日本大震災のあと、東北ゆかりのミュージシャンを集めて「白崎映美&東北6県ろ〜るショー!!」を結成した。そんな白崎さんが5月7日、福島県飯舘村を訪れてコンサートを開いた。原発事故の影響による「全村避難」を強いられた村人たちに、白崎さんたちが届けた歌は──。
東日本大震災をきっかけにバンド結成、「福島」に思いをはせて
♪サンダルはいて おばちゃんちまで♪
5月7日午後、福島県飯舘村にある「交流センターふれ愛館」。白崎映美さんがコンサートの中盤でバラード『更地のうた』を歌い始めると、にぎやかだったホールが静まりかえった。
♪「こんにちは」
「いらっしゃい、今日は暑いね」
「元気でいいね」♪
歌は冒頭、平凡だけれど幸せだった福島の人びとの日常を描きだす。しかし、2011年3月に原発事故が起きた。
♪毎日つづく暮らしの声が
なくなるなんて知らなかった♪
白崎さんは上々颱風のボーカリストとして、ジブリ映画『平成狸合戦ぽんぽこ』のエンディングテーマになった『いつでも誰かが』などのヒット曲をもつ。「東北6県ろ〜るショー!!」を結成したのは、2011年3月の東日本大震災がきっかけだった。白崎さんは山形県酒田市の出身。同じ東北の地が地震、津波、原発事故で苦しむのを見て、悔しさがこみ上げてきた。子どものころ、「酒田大火」と呼ばれる大火事で家を失ったことがあった。そのときの自分と震災の被災者たちが重なる部分もあった。
「東北のみんなさ、いい事いっぺ来い」
悔しさを胸にメンバーを集めた。アコーディオン・ヴォーカルの小峰公子さんは福島県郡山市出身。津軽三味線の岡田修さんは、白崎さんと同じ山形県酒田市。サックスの梅津和時さんは仙台市育ち。東北ゆかりのミュージシャンたちが集まった。
白崎さんは昨年、「福島」にまつわる作品を相次いで作った。代表作が『更地のうた』だ。
♪このムナシサを どこにおこうか
立ち尽くす 立ち尽くす
更地になって草生い茂る わたしのおうちの場所で♪
この歌詞は福島第一原発に近い福島県の浜通り(太平洋沿い)を訪れたときのインスピレーションで生まれた。
白崎さんを案内したのは福島県浪江町出身の今野寿美雄さんだ。今野さんは震災前まで原発で働いていた。原発事故後は故郷を離れ、福島県福島市で暮らしている。浪江町の自宅周辺は放射線量が高く、学校など子どもを育てるための施設も少ない。断腸の思いで自宅を解体した。昨年2月、家がなくなって更地になった場所に白崎さんを案内した。それがきっかけとなり、『更地のうた』が生まれた。
「実際に案内してもらって、やっぱりテレビや新聞で伝わってくるのとは全然違う感覚でした。その、ハァァ……という言葉にならない気持ちが歌に変わっていったんですね」(白崎さん)
地元の人々の心に響く、白崎さんの力強い歌声
今野さんはこの日のコンサートを最前列で聴いていた。
「やっぱり映美ちゃんのパワーと感性はすごい。俺らが原発事故で感じてきたことを歌で表現してくれる。自身も酒田大火で苦労した経験があるから、困っている人たちと思いを一緒にできるのかなあと思う」
♪カラダはここに ココロはどこに
見えないあなたに会いに♪
ささやくようだった白崎さんの歌声は、曲のクライマックスに向けて力強さを帯びる。バンドメンバーの重厚な演奏とともに、その歌声がホールに満ちていく。
白崎さんには福島で歌うことへの心配もあった。
「地震の前のことをね、みんながワイワイしていた商店街だったり、みんなが暮らしていた日常のことを歌ったりしているわけで、この歌を聴くことで逆につらい気持ちになる人もいるんじゃないかなとか、いろんなことを考えてしまうんですけれども……」
白崎さんはそう語るが、歌い終わったあとに沸き起こったこの日いちばんの拍手が、観客にも歌のメッセージが届いたことを証明していた。
飯舘村在住の三瓶たつ子さんは、コンサートの感想をこう話した。
「白崎さんの歌声や表情はまるで童話の世界。同じ東北出身ですし、なつかしい気持ちになりました。元気をいただきました」
飯舘村は原発事故後、苦難の日々を歩んできた。福島第一原発からは40キロ離れた内陸部に位置するが、風向きの影響で放射性物質の通り道になってしまった。村全域が計画的避難区域に指定された。いわゆる「全村避難」だった。今も避難指示が解除されない地域が残っている。
東北の人々に誇りを──。鳴り止まない拍手
村は『いいたてティーパーティー』と称して、コンサートや寄席など各種イベントを催してきた。白崎さんらの公演もこのティーパーティーの一環だ。
「村に戻ってきた人も、今も避難先で暮らしている人も、みんなが一同に集まって楽しめる『場所づくり』になればいいと思っています」(村役場、生涯学習課の大森真さん)
この日にコンサートで披露した十数曲の中には、福島にまつわる曲がたくさんあった。
『夜ノ森月ノ下』は、福島第一原発に近い福島県富岡町に「夜ノ森」地区、「月の下」交差点という美しい地名があることから生まれた歌だ。
小峰さんがメーンで歌った『相馬二遍返し』は、江戸時代に相馬藩(現在の福島県内)で歌われた民謡だ。「天明の大飢饉」で多くの人が亡くなり、人口が減った相馬藩が、各地から人を呼ぶための歌だったという。「福島ににぎわいを取り戻したい、という思いで歌いました」と小峰さんは話す。
コンサートの最終盤に披露した「まづろわぬ民」は、東北の人びとに誇りを与える歌だ。福島高校ジャズ研究部と共演し、観客も総立ちになった。
♪多く語らず 恥ずかしがりやで
気持ぢの優しい民だ
抑え切れないこの衝動は
確かにあなた方の末裔だ♪
コンサートは約1時間半。アンコールの場面。ステージに戻った白崎さんが、飯舘村内の農家から花をもらった話をした。飯舘は花卉栽培が盛んな地域だ。
「お花をいっぱいいただいて、ほんとにうれしかったです。これからも、いろんなことをいっぱい教えてください。仲よくしてほしいなと思います。また、元気で会いましょうね」
心のこもったMCのあと、白崎さんが新曲『うた』を歌った。
♪うた なぜ 人は うたう
あの人の涙をうたに変えて
あの人の悲しみをうたに変えて……♪
鳴り止まない拍手の中、コンサートは終わった。
終了後、白崎さんは話した。
「福島のみなさんが拍手してくださったというのは、とてもうれしかったです。東北6県ろ〜るショー!!で、“東北さ、いい事来い”って、しつこくやり続けたいと思っています」
白崎映美さんとバンドメンバーたちの旅は続く。
(取材・文/ウネリウネラ・牧内昇平)
『白崎映美&東北6県ろ〜るショー!!』次回公演
5月28日(土)、『八王子音楽祭2021和~るど・ミュージック祭り!!』で開催
チケットの予約や問い合わせは以下へ
◎公益財団法人『八王子市学園都市文化ふれあい財団』(電話:042-621-3005、URL:https://www.hachiojibunka.or.jp/icho/archives/eventinfo/2021-10/)
◎株式会社プランクトン(電話:03-6273-9307 ※平日13〜17時、URL:http://www.plankton.co.jp/ticket.html)