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社会

「施設を作るだけでマイナス」と言われても、福島に原子力災害考証館ができた理由

SNSでの感想
震災で家族を失った木村紀夫さんの展示の前で語る、館長の里見喜生さん=牧内昇平撮影
目次
  • “マフラーの中にある歯の写真”に込められた思い
  • 被災者の切なさや寂しさを知ったからこそ

 2021年3月12日、福島県いわき市にある老舗温泉旅館の一室に、「原子力災害考証館 furusato」ができました。旅館の主人の里見喜生さん(53)は、「観光地にマイナスになる」という周囲の心配を受け止めつつ、原発事故やエネルギー問題を考えるための施設をオープンさせました。「民間の人間として、原子力災害の被災地の”声なき声”を伝えたい」──。里見さんが考証館に込めた思いを聞きました。

“マフラーの中にある歯の写真”に込められた思い

 いわき市・湯本温泉の老舗旅館「古滝屋」。建物の9階、原発事故前は宴会場として使われていた20畳の広間に、「原子力災害考証館 furusato」はある

 来館者の目にまず飛び込んでくるのは、正面奥のオブジェだ。流木がピラミッド状に組み上げられている。木々の間に子どもの運動靴やランドセルが置かれている。福島県大熊町に住んでいた木村紀夫さんの展示である。木村さんは妻・深雪さんと娘の汐凪さん、父・王太朗さんの3人が津波にのまれた。福島第一原発が立地する大熊町は地震の直後に避難指示が出たため、津波に流された木村さんのご家族には十分な捜索活動を行うことができなかった。

──木村さんのオブジェは、原子力災害の深刻さを突きつけてくる展示だと感じます。

旅館の主人・里見喜生さん(以下:里見):あの展示は木村紀夫さん自身がレイアウトしたものです。流木の組み方、その中に置かれた汐凪ちゃんの靴やランドセルの配置。すべて、木村さんがひとりでしつらえました。まるでそこに汐凪ちゃんがいらっしゃるかのように、丁寧に……。木村さんはたびたびここに来て、ちょっと流木の位置を動かしたり、置いてある物をきれいに並べ直したりしていますよ。

──汐凪さんの水色のランドセルがありました。

里見:切ないですよね。1年しか使っていないから、まだきれいです。汐凪ちゃんが使っていたマフラーもここにあります。見つかったとき、このマフラーの中に汐凪ちゃんの首の骨の一部があったのだそうです。そのことを、木村さんはこの展示で表現しようとしています。マフラーの中に、汐凪ちゃんの歯の写真を入れているのです。木村さんは本当に、“再現”ということを考えていらっしゃる。もし僕が木村さんの立場だったら、そこまで向き合えるだろうか。並大抵の意志じゃないと感じます。

──こうした展示はガラスケースに入っていないのですね。

里見:ガラスケースに入った展示物って、たとえ目の前にあっても少し遠い感じがしますよね。それはやめようと思いました。マフラーを少し撫でて帰るお母さんもいらっしゃいます。僕も写真などを手に取ってもらっています。涙を流す方もいますし、お子さんにずっと語りかけているお母さんもいます。いらっしゃった方はやっぱり何か感じてくれるんですよね。

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