「そこにしかないから食べに行きたくなるし、地元民にとっては食べに帰りたい心の味。それがローカルチェーンの大いなる魅力です」
テレビの番組リサーチャーとして、さまざまな番組で活躍している辰井裕紀さんは、特定の地域だけで楽しむことができる“ローカル飲食チェーン”についてこう語る。
特定の地域では全国展開のチェーン店にも負けない人気を誇る店たち。“達人”の辰井さんが、その魅力について熱く語ります!
【北海道】カレーショップ インデアン
●『鍋テイクアウト』は、今ではもはや“帯広の文化”に!
まずは北の大地、北海道の帯広を拠点とする『カレーショップ インデアン』。
「ここのカレーが食べたいからと、関東から帯広に移住してしまった人がいるくらいファンの多いお店です」(辰井さん、以下同)
約16万人の人口を有する帯広を中心に12店舗を展開し、年間280万食の売り上げを誇っている。
「人気の一端を担うのは、リーズナブルなのにアレンジが楽しいところ。店内価格462円からで、ルー(カレーソース)は濃いめの『インデアン』、あっさりとした『ベーシック』、野菜がゴロゴロの『野菜』の3つから選べ、5段階の辛さ調整も無料です」
最近では辛さ調整は有料が当たり前の現在、このシステムはうれしい。
「帯広に全国チェーンの『カレーハウスCoCo壱番屋』が2回出店したのですが閉店しています。インデアンの強さとコロナ禍の影響でしょうか。
家で作るカレーのようなとろみがありつつ、お店カレーのスパイシーなテイストを兼ね備え、インデアン味としか形容できない味わいです」
そして、この店独特のつけ合わせが──。
「お寿司についてくる、ガリが卓上で取り放題になっています。想像しにくいかもしれませんが、このカレーにものすごく合うんです」
毎日、夕方になると鍋を持って車でルーを購入する客の姿が見られるのも、この店の特徴。
「鍋を持ってくれば容器代の55円がかからず、1人前345円から買えます。このシステムができて30年くらい。もはや、帯広の文化かもしれません」
【三重県】おにぎりの桃太郎
●コンビニおにぎりとは別物 具は地域のソウルフード
三重県の中でも知らない人がいるが、四日市市民なら誰もが知っているというのが『おにぎりの桃太郎』。
「四日市市内に14店舗、その他2店舗もその周辺です。ここまで局地的にお店を出すチェーンは珍しいですね」
同じ店舗を集中出店する戦略にしても、珍しいくらいに“密集”している。しかし、近いがゆえのメリットもあるという。
「『おにぎりの桃太郎』は、保存料を使わず常温でおにぎりを提供。消費期限はその日だけです。だから過剰な在庫は置けません。でも、狭いエリアで展開していれば在庫がなくなっても、余っている近くの店から補充することができるので、最低限の在庫で回せるわけです」
また、地元に根ざしている証(あかし)になるのが、おにぎりの具。
「いちばんの人気は170円の『味』。現地流の炊き込みご飯で、ちょっと濃いめの味わいです。あと、北勢地区のソウルフード、160円の『あさりのしぐれ煮』のおにぎり。コンビニより少し値段は高めですが、常温保存ゆえの炊きたて感があり、160円という価格も納得です」
そして話題になっているのが、本社屋上に設置された巨大な桃のオブジェ。
「毎日5回、決められた時間になると桃太郎のメロディーとともに桃が開いて、巨大桃太郎が登場します。その時間というのが、8時、10時、12時、15時、17時。これは建設現場などで働く人の休憩時間に合わせてあります。時報として市民の役にも立ちながら、“ご飯どき”を知らせているんです。このオブジェの建設費用は約3000万円だそうです」
【茨城県】和食 ばんどう太郎
●女将の心遣いが半端ない! マニュアルを超えた接客術
「試みが興味深いのは、『ばんどう太郎』です。普通のファミリーレストランの建築費の約2倍、およそ1億5000万円をかけて建てた、屋敷のような外観の店舗が出迎えてくれます。また、最後のお客さんをスタッフ全員でお見送りするなど接客に定評があります」
茨城県を本拠に、北関東を中心として展開する和食レストラン『ばんどう太郎』は、49店舗を構える。
「ここのオススメは、『坂東みそ煮込みうどん』。みそ煮込みうどんといえば名古屋ですが、こちらのものは関東人向けの味つけにアレンジされており、八丁味噌に白味噌を合わせて、いくぶんマイルドに。それに絶妙なかたさにゆでられたうどんを組み合わせています。
具材も白菜やネギ、かぼちゃ、レンコンなど季節のものがたくさん入り、鍋の底から掘り出すのも楽しいです」
そして、この店にはファミレスには珍らしく、女将(おかみ)がいるということ。
「長く勤務しているパートさんが女将を務めています。正社員だと2~3で異動してしまいますが、パートさんなら同じ店で10年以上続けるケースも。なのでお客さんの名前を覚えて呼びかけるなど、きめ細やかな接客ができます」
なにより“地元ファースト”の考え。みそ煮込みうどんの味つけも、
「“地域によって味に対する感覚が違うのは当然、隣県でも県民性や味覚が違う”と、店長にできるだけ地元の人をつけ、味の管理も任せているとのことでした。例えば、千葉県の人は栃木県などに“あまり異動させない”そうです」
【熊本県】おべんとうのヒライ
●外食・中食・コンビニ3業態混合の“最強”チェーン
「熊本県を中心に九州に140店舗ものお店を構える、ローカル“メガ”チェーンが『おべんとうのヒライ』。ロードサイド店ではお弁当の販売に加えて、日用品も扱うコンビニ、食堂がコンビニサイズの店舗に収まっています」
車社会の熊本で人気の店。ただ3業態が入っているだけでなく、人気の秘密はそれぞれのコスパと質の高さ。
「ジュースが40円台からあり、電子マネー『コジカカード』で支払えば、朝はおにぎりとサンドイッチが2割引き。とりあえずヒライに行けばなんでもそろうという感覚です。名物惣菜の『ちくわサラダ』は、ちくわにポテトサラダを入れて揚げたもので、食感が楽しく濃厚な味わいがたまらない一品。
イートインでも社員の山瀬さんが作り上げた『山ちゃんラーメン』も人気。たくさんの具材が楽しい、食べ応え十分の熊本ラーメンにして、450円です」
そんな中でもぜひこれを食べてほしいというメニューは、
「『大江戸カツ丼』です。カツを卵と一緒に煮るのではなく、サクッと揚げたカツにトロトロに煮た卵をかける丼。とにかく食感が格別で、値段も500円とリーズナブル。エビ天とカツを一緒にのせた、『かつ天丼』など、おトク感がすごい期間限定メニューたちも魅力です」
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緊急事態宣言も解かれ、少しずつ元の生活が戻ってくる兆しが見え始めた今。感染防止対策をしっかりしながら、“ここでしか食べられない”ものを目指す旅に出てはいかが!?
《PROFILE》
辰井裕紀 ◎ライター、番組リサーチャー、元放送作家。『秘密のケンミンSHOW』(日本テレビ系)のリサーチを7年間務める。近著に『強くてうまい!ローカル飲食チェーン』(PHPビジネス新書)
(取材・文/蒔田稔)