大人って大変。
仕事もプライベートもうまくいかないことが盛りだくさん。子どものころは大人になったら好き放題できると思っていたのに、想像と違ってその生活は窮屈だ。
うまく楽しく生きることを誰かに教えてもらいたいのに、そういう相談相手すら回りにいない。
でも、安心してください。その悩み、きっとゲームで経験してますよ。
懐ゲーには世の中を生き抜くノウハウがたくさん詰まっています。そう、かつて夢中になって遊んだ懐ゲーからこそ、現代社会を生き抜く処世術を学び取れるのです。
懐ゲーから現代を生き抜く術を学ぶ、「懐ゲー的処世術」第1回は、誰もが通ったあの名作「マリオブラザーズ」です。
国民的ゲームキャラクターのマリオがはじめて主人公となったタイトルです。はじめて遊んだファミコンソフトがこの作品だったという人も多いのではないでしょうか。
続編にあたる「スーパーマリオブラザーズ」が大ヒットして以来、マリオさんは世界規模の超売れっ子になります。
キノコ王国を飛び出したマリオは、時を超え、ハードを超え、大活躍。ゴルフ、F1、ゴーカート、バスケにテニス。配管工から医者に転職を果たし、ついにはオリンピック出場まで果たします。
最大の攻略法は“2人同時プレイ”
話を戻しましょう。マリオブラザーズはこんなゲームでした。
配管工のマリオが地下ステージにはびこるお邪魔キャラを退治して、地下の平和を守る、的なゲームです。
土管から出てくる、カメ、カニ、ハエを気絶させて蹴落とし、お邪魔キャラをすべてやっつけるとステージクリアとなります。
ステージを進めると敵の種類が増え、難易度が上がりますが、このゲームには最大の攻略法がありました。
そう、2人同時プレイです。
タイトルの「ブラザーズ」から想像できるように、マリオの弟・ルイージを使って2人のプレイヤーが同時にプレイできるのです。
1人だと苦戦するステージも、2人で協力すれば難なく攻略できるというゲームなのです。
担当するエリアを左右で分けたり、気絶と蹴落としの役割を分担したりと、プレイヤーが作戦を相談して攻略していくのがとても楽しいゲームでした。
攻略のコツはなんといっても、プレイヤー同士の息を合わせることでした。
放置していたカメがしばらくするとよみがえったり、思いがけないところからファイヤーボールが出てきたりと、プレイ中は予想外の事態が畳みかけてきます。臨機応変に対応できる息の合ったパートナー選びが肝心。
お父さんはゲームが下手だし、お母さんはそもそもファミコンがあまり好きじゃない。
おじいちゃんは麻雀しかプレイしないし、おばあちゃんはファミコンのことを「ピコピコ」と呼び続けている。
どこかに信頼できるパートナーはいないものかと全国の少年たちは、パートナー探しに頭を抱えました。
そして答えを出します。
いつも遊んでいる、いちばんの友達をパートナーに抜擢(ばってき)するのです。
仲よしコンビと呼ばれているアイツとならコンビネーションに不安はない。
カメだろうがカニだろうが、阿吽(あうん)の呼吸で蹴散らしてみせる。
さあ、行こうではないか、何面あるかわからないけど、その先へ!
という感じで、いちばん仲のよかった友達をパートナーに選んで、地下に突入したあの日のこと、覚えていますか?
“わひゃひゃひゃひゃ!”
相方が気絶させたカメをあなたが蹴落とせば、ハエにやられそうな相方をPOWブロック(これを下から突き上げることで画面全体を突き上げたことと同じ効力を発揮する=敵が遠くにいても気絶させることが可能)で救出するあなた。
息のあったコンビネーションはまさしく最強タッグ。この勢いならゲームクリアも夢ではない。
と思った矢先に、目の前に怒ったカニが飛んできました。
??
どういうこと?
「ごめんごめん。カニは2回たたかないとダメってこと忘れてた~」
仕方ない。誰にだってミスはある。まだ1ミスだ。気を取り直してカニ退治を……。
と思った矢先、今度は気絶したカニがよみがえり、こちらにすっ飛んできた。
誰だ、POWブロックをたたいた奴は……。
「わひゃひゃひゃひゃ! ひっかっかった!」
おまえ、わざとやってるだろ!
「これ、殺し合いのほうが絶対おもしろいわ! わひゃひゃひゃひゃ!」
殺し合い……だと?
そっちがその気ならやってやるよ! タッグ解消だ!
オレのマリオで好き放題させてなるものか!
といった具合で、マリオとルイージの仲間割れが日本各地、いや世界中で発生したのでした。
さて、本題に進みましょう。
その友達をパートナーに選んだのはあなたでしたよね?
仲のいい友達こそベストパートナーであると考えたのはあなたでしたね。
しかし、待っていたのは攻略ではなく、見事な仲間割れ。協力プレイをするはずが、遊び時間リミットの夕方5時まで凄惨極まりないバトルを続けることになってしまいました。
このとき学んでいたのです。
「仲のいい友達と仕事をしたからといって、成果があがるわけではない」
ということを。
パートナー選びに困ったときはマリオブラザーズで過ごした、あの凄惨な日々を思い出してください。
黙ってPOWブロックをたたくような人はパートナーに選んじゃダメですよ。
マリオで痛い思いをしたあなたなら、もうパートナー選びはしくじらないですよね?
(文/野中大三)
《PROFILE》
ゲームとプロレスをこよなく愛するコラムニスト兼ドット絵師。電子玩具開発を経て、株式会社カプコンでテレビゲームのプロデューサーを務め、オリジナルタイトルや人気シリーズタイトルのプロデュースを手がける。現在も電子ゲームの開発に携わっている。35年にのぼるプロレス観戦歴とゲームプレイ歴の経験から日本最大のプロレス団体、新日本プロレスオフィシャルサイトでコラム「ゲーム的プロレス論」を連載中。プロレスラーをドットで表現する「dotswrestler」を Twitter で公開中。