傷つきやすいし、傷つけやすい

性格は繊細です。つい、いろんなことが目についてしまうんですよね。話している相手が“退屈されているな”とか、飲みに行っても“帰りたがっているな”とか感じちゃうので、単純で鈍感だったらよかったのにと思うこともあります。それで打たれ弱いから、例えば、仕事で意見の相違があってもめたりすると、“言いすぎたな~”と落ち込むんですね

 その繊細さが生きづらい反面、俳優という仕事だからこそ役立っている面もある。

「対人間と演劇をやることにおいて、細かいことを表現したり読み取ることは、演技には重要だと思うんです。だから、傷つきやすい、傷つけやすいという性格が活かせる。僕の場合は、この仕事じゃなかったら自殺していたかもしれない

 俳優になって40年あまり。出演作品は300作を超える。しかし「芝居は好きだけど、楽しいとは思っていない」という。

作品を作るという苦しみのほうが多いです。できあがった作品を見て、“もう一回やれたらもっといいものができるのに”と思いますし、後悔だらけですから。いつもクヨクヨしています。

 俳優を職業に選んだことに後悔はないですが、もしタイムマシンで戻れるなら、中学生からやり直してちゃんと勉強して、公務員になりたい(笑)。これも矛盾してますけど、安定して働ける職業について、結婚して子どもをつくって家族を持つという人生もあったなと。人生これでよかったのかなと、ときどきふと思うことはありますね

インタビューに答える木下ほうか 撮影/佐藤靖彦

人生100年時代。こんな恐怖はない

「日ごろから、健康には気をつけています。基本的に電車移動ですし、エスカレーターはできるだけ使わないで階段を利用しています。極力歩くことにしているので、最寄り駅の3駅前で降りて歩いて帰るとか、そういう努力はしていますね。不安は腰痛と痔(じ)くらいです(笑)」

 50代になってからは「死に対する意識が変わってきた」と明かす。

「自分もいつ死ぬかわからないし、死が身近な年代になってきたと思う。でも、若いころのような年をとる恐怖や、死への恐怖心はなくなってきました。今、いつ死んでもいいなって思えてます。今まで十分にやってきましたし、妻も子どもいないから、責任なく死ねるわけです。

 逆に下手したら、この先30年……もっと生きる可能性もあるし。元気だけどバイクにはもう乗れなくなって、そして孤独だったらって考えるとぞっとする。人生100年時代。こんな恐怖はないですよね

取材・文/井ノ口裕子

〈PROFILE〉きのした・ほうか 1964年1月24日、大阪府出身。1980年公開の映画『ガキ帝国』で俳優デビュー。数多くのドラマや映画、バラエティー番組などで幅広く活躍。俳優業のほか、映画製作活動の場も広げている。現在、映画『無頼』『レディ・トゥ・レディ』『大コメ騒動』が全国公開中。
◎公式ブログ「ほうか道」http://www.diamondblog.jp/official/houka/