“私が死んだらお父さんは生きていけない”

 自宅周辺では仲のよい夫婦として知られていた。2人して電動アシスト自転車に乗ってショッピングセンターに買い物に出かけたり、一緒に近所を散歩する姿がたびたび目撃されている。

「旦那さんは神経質でやや気難しいところがあり、明るい奥さんが旦那さんを引き立てて家事や近所付き合いを含めうまく立ち回っていました。典型的な亭主関白で、旦那さんが現役のころは、奥さんがタクシーを洗車することもあったほど。昔から“私が死んだらお父さん(夫)は生きていけない”と話していましたね」(近所の主婦)

夫婦がよく散歩していたコース。バス停2つぶんくらい平気で歩き往復していたという

 近所の住民らに妻が打ち明けたところによると、妻はずいぶん前に大腸がんを患ったことがあった。

「手術は成功して奥さんのがんは再発せず、完治したようなんです。ところが一昨年ごろから旦那さんが足を悪くして、運転が怖くなって現役を引退したんですって」

 と近所の女性は言う。

 夫がかつて所属していた個人タクシー組合の関係者はこう振り返る。

「彼は定年のない時代から個人タクシーをやっていたので健康で事故を起こさなければいつまでも現役でいられたはず。高齢ドライバーの事故が大きな社会問題となっているから難しい側面もあるが」

 夫は主に夜から稼働して朝まで走るスタイルで運転手を続けてきた。マイホームのローンは10数年かけて完済しているし、台風で飛ばされた屋根やキッチンの床なども修理して自宅は見違えるほどきれいになった。ひとり息子は家庭を持ち、孫娘と遊びに来るのが楽しみだった。

 無理に現役にこだわる必要のない生活の中、昨年秋ごろ大病に襲われた。