ドラレコで発覚! マイナスの成功体験

 高齢になるほど身体のさまざまな機能は衰えていく。ただ、加齢が即座に事故へ結びつくと考えるのは早計だ。

 ドライブレコーダーを使って、高齢者の運転能力の診断を行う「高齢者安全運転診断センター」の事務局長・橘則光さんが指摘する。

「警察庁の統計を見ると、社会の高齢化に伴いここ10年、高齢ドライバーが起こす事故の件数ではなく、事故の割合が増えました。その影響もあってマスコミが取り上げる機会が多くなり、センセーショナルに扱われやすくなったのではないかと思います」

都内ではドラレコを使った安全運転の診断サービスも登場

 高齢ドライバーの事故原因というと、“アクセルとブレーキの踏み間違い”が頭に浮かぶ人は多いだろう。だが実際は、「高齢者だけに顕著なわけではなく、若い世代も決して少なくない」と橘さん。

 公益社団法人「交通事故総合分析センター」のデータ('10年~'15年)によると、踏み間違い事故は70歳以上の9246件に対し、29歳以下は1万243件。意外なことに若い世代のほうが多い。

「ただし、若い世代は踏み間違えたあと、ブレーキを踏み直すまでの時間が早い。リカバリー力が違うんです。高齢者の場合、あわててしまって再度アクセルを踏んでしまい、大事故になってしまうこともあります」(橘さん)

 加齢とともに低下するのはリカバリー力だけではない。首の可動域が狭まることで視野も狭くなり、運転中に左右に死角が増える。足首が硬くなるとアクセルの微調整が難しい。これらの機能低下は駐車場などの狭い場所で、歩行者との接触事故が起こる原因にもなるという。

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 身体機能の低下は徐々に起きるため、高齢ドライバーの多くは自覚できていない。

「自身の運転を客観的に知ることが重要。それも、いつも通る道での、普段の運転を知ることが大切です」(橘さん)

 こうした考えのもと生まれたのが、運転中のシニアをドライブレコーダーで録画して「ありのままの姿」を映し出し、運転能力を客観的にチェックする「高齢者安全運転診断サービス」。研究分析担当の小林竜也さんが説明する。

「こちらでお貸し出しする、前方と運転者が映るドライブレコーダーをつけていただき車の挙動とドライバーの様子を録画します。分析に使うのは、普段の運転の癖が出やすい最後の90分の映像。車の速度なども考慮しながら、危険につながる操作をしていないかどうか総合的に診断します」

 診断する中で多いのが、通い慣れた場所での一時停止の無視、左折時の確認不足。いつもの道の普段の走りだからこそ、こうした課題が浮き彫りになると小林さんは言う。

「私たちは“マイナスの成功体験”と呼んでいるのですが、これまで事故を起こさなかったのは偶然、その場に人や車がいなかっただけかもしれない。映像という動かぬ証拠を目にすれば、危うさを自覚していただけると思います」

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 こうして得られた客観的な分析を生かして、できるだけ長く安全に運転し続けるにはどうすればいいのだろうか?

「高齢ドライバーと家族との間で簡単なルールを作るといいでしょうね。例えば、昼間のみで夜は運転しない。遠出はしないで大通りや車が少ない道を通る。また、あらかじめ運転しやすいルートやエリアを調べて、そこだけを運転するよう決めておくのもおすすめです」(小林さん)