間取り図から読み取る今の日本
これまで何百件と間取り図を見てきた宇都さんは、「安くて古い物件ほど、おもしろい間取りが多い」と話す。あれもないしこれもないけど、じゃあどうやって暮らそうかと想像をめぐらすところに、間取り図を愛でる楽しみがあるのだ。
一方で、間取り図は時代を映す鏡でもあるという。
「国土交通省が定めている基準によると、健康的な住生活を送るには、単身者でもせめて25平方メートル以上の広さが必要とされています。あまりにも現実とかけ離れていますよね」
25平方メートルとは約13畳。都会でこの広さだと、家賃10万円は下らないだろう。実際には都会の単身者用物件では6畳一間でもいいほうで、一時期は窓すらない1~2畳の押し入れのような部屋も流行した。
「高度成長期には、より多くの国民が文化的な生活を享受できるよう次々と団地が造られ、入居申し込みが殺到するほどでした。それがいまでは、単身者の部屋はどんどん狭くなり、反対に富裕層向けの部屋はとてつもなく広くなるという、二極化が進んでいます。中間層が無理なく住める住居が、特に都会で不足していると感じます」
例えば、富裕層でいま流行りの不動産投資。利回りをよくするために狭い空間をさらに小さく区切った激セマ物件が生まれ、その利益で富裕層は広い部屋に住む。なんとも切ないカラクリだ……。
「おもしろ間取りの背景には、狭い日本ならではの限られた土地事情や、地方の過疎化、経済格差などさまざまな問題が隠れています。最近では、夢のあるおもしろい間取りも少なくなってきました。それでも、作家性の高い実験的な建築物はこれからも決してなくならないだろうと、期待もしています」
どんなに不便でも狭くても「住めば都」。掘り出しものは、案外おもしろ間取りの物件から見つかるかもしれない。
※企画内の間取り(2)(3)(5)の物件は、2018年にダイアプレスより刊行された『事故物件vs特殊物件 こんな間取りはイヤだ!?』で紹介されたものです。間取りの図版は、同書に掲載したものと同一のデータを使用しています。
(取材・文/植木淳子)
(週刊女性2021年6月1日号掲載)