パニック症になってから、9年ほど薬に頼る日々が続くも、今ではすっかり笑顔を取り戻した青木さやか

偏見や固定観念に苦しめられていた

――パニック症になってよかったと思えることはありますか?

青木:私は、自分の人生に起きることはすべて、何かしらの原因があったうえでの結果だと思っているんですよ。だから「原因はなんだろう、考え方を改めよう」という、ひとつの大きな変化につながっているので、よかったといえばよかったことです。

――病気を経験する前と後で、どう考え方が変わったんですか?

青木:パニック症に対する偏見や固定観念がなくなりましたね。最初は心療内科に通っていることを人に知られたくなくて、マスクをして行っていましたし、パニック症だと知られれば、仕事で使いづらいとか、しゃべりづらいとか、笑いにつながりづらいとか、思われるんじゃないかと思っていました。

 でも実際には、心療内科に通う人も至って普通の人たちだし、自分の偏見に自分自身が苦しめられていたことに気づいたんです。今では「(パニック症で)薬を飲んでいるんですか」って聞かれたら、血液型を聞かれたときに「O型です」って答えるのと同じくらい(の感覚で)、「飲んでいます」って答えられます。

――自分のなかにある偏見や固定観念に苦しめられていたんですね。

青木:私は、過去に植えつけられた記憶のなかで、偏見や固定観念を持って生きてきました。親や友達、先輩などから言われた言葉が頭の中に残っていて、これを言ってはいけないとか、こう生きていかなきゃいけないとか、こういうときはこうだ、みたいな。そういったものがなければ、きっとストレスはなかったと思います。とは言っても、社会に物申すより、自分が変わったほうが早いのだと、恩師に教えてもらいました。まずは自分の偏見をなくして、自分が変わらないといけないと感じています。

――具体的には、どんなことに気をつけていますか?

青木:仕事では、ネガティブなことを思うと倒れそうになっていたけれど、楽しければきっと倒れない。だから、常に楽しい状況を作るために、人を嫌わない、嫌われないことを意識しています人を嫌わないっていうのは、自分と考え方が違う人がいても否定しないこと。誰も何も否定しなければ、自分も否定されないんじゃないかと思って実践しています。できるだけ自分が仕事をしやすい、生きやすい環境を作るには、人との関わり方や生き方を変えるのが大事だと思います。

――自分に対しても厳しくなくなったという面もあるんですか?

青木:私は自分をぜんぜん大事にしていなかったんだと思いますね。自分を大事にすることは、人を大事にすることだと思うようになったので、今は前よりも自分のことを大事にできていると思います。

――最後に、パニック症で悩む人に向けてメッセージをいただけると幸いです。

青木:私は肺がんもやっていますけれども、パニック症のほうが日常的にはつらかった。世間の目が気になるとか、職場には言いたくないとか、そういう思いがあって、それをストレスに感じる人がいるとしたら、「多くの悩みは植えつけられた固定観念に過ぎない」って思ったほうが、楽に生きられると思います。

(取材・文/お笑いジャーナリスト・たかまつなな)

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