100人に叩かれても、1人が救われるなら
どんなに好きな人で、自分から猛アプローチをして付き合うことになった相手だとしても、彼女はその後、「一途」にはなれない。だからといって、こそこそと浮気もできない。ようやく自分が「ポリアモリー」として生きていくしかないのだ、と認識することができた。その後、きのコさんはポリアモリーについて学んでいく。同時に、SNSなどを通じて、ポリアモリーであることをカミングアウトした。
「世の中に向けて発信したいと思ったわけではないんです。当時はとても孤独だったので、仲間が欲しかったし、語り合う場が必要だった。だから、最初から自分が複数の人を愛してしまう人間なんだと隠さずに言って、仲間探しを始めたわけです」
そのうち、「自分もずっと悩んでいた」「私もそうです」という人が現れるようになった。少しずつつながりが増え、孤独感をわかち合えることも多くなった。
「もちろん、“ただのビッチだろ”、“ブスのくせに”などと脊髄(せきずい)反射的にバッシングしてくる人は昔も今もいます。だけど100人に叩かれても、私と同じような人が1人でも救われるなら発信を続けていきたかった。SNSもそうですが、リアルな場で『ポリーラウンジ』(ポリアモリーに興味がある人々のための交流会)を主催してみたら、私自身、仲間に出会えて孤独ではなくなったから」
きのコさんは強いとよく言われるが、「強くならざるを得なかっただけ」と、透明な美しい声で語る。
きのコさんがカミングアウトしてからの10年間で、ポリアモリーの概念はかなり浸透した。ただ、概念が広がるにつれて誤解する人もいれば、悪用する人も出てくる。新しい考え方は、常にそういう怖さをはらんでいるのだろう。
「ポリアモリーとは、という定義を求める人も多いんですが、私はそれほど厳密には考えていません。思想も概念も生き物だから、時代によって変化していくものだと思っているので」
きのコさんが現段階で考える『ポリアモリー』とは。
「3人以上の登場人物がいて、全員が合意のもとで複数人で交際していること、ですね。そのうちひとりでも他にパートナーがいることを知らなかったり、嘘をついていたり、暴力的に概念を押しつけられたりする場合は違うと思っています」