原作とは異なる試行錯誤も

 日本テレビ版『ドラえもん』(1973年4月1日〜9月30日の全26回、アニメ制作は日本テレビ動画)が放送されたのは、日曜の夜7時(裏番組が人気アニメの『マジンガーZ』という厳しい時間帯)だった。

 日本テレビ版の設定などを調べてまず驚くのは、テレビ朝日版とは印象がかなり異なるメイン声優陣だろう。

 日本テレビ版のドラえもん役は富田耕生さんだった。『マジンガーZ』のDr.ヘル、『ゲッターロボ』の早乙女博士、『平成天才バカボン』のバカボンのパパでおなじみの大人のおじさんの声といった印象だ。

 さらに、ドラえもんを年上の存在ではなく、もっと身近な友達らしさを出すためにと14話からは、『ドラゴンボール』の悟空の声でおなじみの野沢雅子さんへと変更された。

 のび太の声は太田淑子さん。『ジャングル大帝』のレオ、『ひみつのアッコちゃん』のアッコでおなじみのベテランだ。ジャイアンの声は、なんと後にテレビ朝日版でスネ夫を担当した肝付兼太さんだった。そして、のび太の母はテレビ朝日版で、のび太の声を担当した小原乃梨子さんだったというから、なんとも興味深い。ちなみに、しずかちゃんの声は恵比寿まさ子さん。『ジャングル黒べえ』でも紅一点のたかねちゃんを演じている。スネ夫の声は八代駿さん。『いなかっぺ大将』で主人公と対立する西一を演じている。

 設定においても、ジャイアンの母親が故人で父子家庭だったり、しずかちゃんの家にボタ子という家政婦さんがいたり、ドラえもんが秘密兵器を出すかけ声が「あ〜らよっ」と江戸弁だったり、ガチャ子というアヒル型ロボットが登場してしずかちゃんの家に居候したりと、藤本先生のオリジナルにはないアレンジがある。テレビ朝日版との相違は多々あるが、単行本の発売前で原作エピソードも少なかったため、作品のイメージが今のように固まっておらず、下町人情ものを狙った試行錯誤がうかがえる。

てんとう虫コミックス未収録の作品を集めた『ドラえもんプラス(1)』表紙  ※藤子・F・不二雄(著)/小学館