〈鍼灸・漢方〉統合医療がこれからの流れ

「猫も人間のようにお灸(きゅう)や鍼(はり)ができるんです。意外と嫌がらないんですよ」

 そう語るのは、20年近く中医学(東洋医学)に携わってきた獣医師の澤村めぐみさん。鍼灸(しんきゅう)や漢方、手作り食の指導を中心に、西洋医療と組み合わせた統合医療にあたる。過去10年間で約3万件、3千頭の犬猫を診察・治療してきた。鍼灸師の資格も持つ澤村さんは、人間用の台座灸と鍼を使い、関節炎や歩行障害などの猫の治療を行う。

「猫は背骨が人間より多いぶん少しずれますが、基本的にツボは人間とほぼ同じ場所です」(澤村さん、以下同)

 ツボは自宅でマッサージすることでも、体の不調が整いやすくなる。

「例えば腰百会(こしひゃくえ)は、第七腰椎(ようつい)と仙骨の間のくぼみにあります。人間でいう上仙(じょうせん)というツボで、腰痛や尿・便の問題などの改善が期待できる万能ツボです。歩行障害などの改善にも効果があるという腎兪(じんゆ)は若返りのツボとも言われ、腰椎の2番目と3番目の間の背骨の両側にあります」

 これらをマッサージするだけでなく、人肌程度に温めた人間用の温熱ピローを猫の背中に当てるのも効果的だ。

鍼治療中の猫。暴れることなく、うっとりとした表情でじっとしている
お灸治療中の猫。人肌程度の温度のパックなどで患部を温めるのもおすすめ

 さらに、シニア猫の健康サポートや皮膚病、尿石症などに対してペット用の漢方を処方している。人間が飲む漢方と成分や効能はほぼ同じだ。

「中医学でいう血虚(血液が不足している状態)や陰虚(水分が不足している状態)になると、毛づやが悪くなったり、パサつきます。血虚には、クコの実や桑の実のエキスが配合された潤華(じゅんか)という漢方が効果的です。陰虚には、スッポンエキスが配合された滋潤(じじゅん)がおすすめ」

 かつては西洋医学の治療のみを行っていた澤村さん。根本的に治せる治療法がないかと模索していた時期に、娘の中耳炎を漢方で治療した経験をきっかけに注目した。

「獣医療でも、漢方を根本治療や体質改善に活(い)かせるのではないかと思いました」

 澤村さんは勤務先の院長を務める獣医師の夫が担当する腹腔鏡の手術やCT、MRIなどの高度医療と中医学診療や自然療法などを組み合わせた治療を展開しているという。

西洋医学ではなす術がない状態でも、動物の体に負担をかけない“優しい治療”として中医学が必要になるケースは多いです。手術によるダメージや体調の落ち込みを漢方によって最小限に食い止めるという使い方もできます。獣医療も、統合医療がこれからの流れですね」

 中医学のメリットは、病気の予防や高齢の猫でも長い期間の治療が可能なことだという。

「そのときの年齢や状態に応じた処方ができるので、ペットのQOL(生活の質)を高めた生活を維持できますよ」

《PROFILE》
澤村めぐみ ◎獣医師。どうぶつ統合医療センター(千葉県千葉市)院長。東千葉動物医療センター(千葉県東金市)勤務。主に中医学・統合医療を担当。日本ペット中医学研究会副会長。https://j-pcm.com/