〈腎臓病治療薬〉愛猫家・藤あや子も寄付

 冒頭の斎藤さんの飼い猫は今年3月、急性腎不全と診断された。

「猫が腎臓病になりやすいのは知っていたので食事には気を使っていたつもりでしたが……」(前出・斎藤さん)

 腎臓病はほとんどの猫がかかる。この“宿命的な病気”が発症する原因を解明し、治療薬の開発に向けた研究が東京大学の宮崎徹教授によって進められているのだ。まさに飼い主にとっては希望の光。

 今年7月に宮崎教授の研究が報道やSNSで紹介されたことをきっかけに、東京大学の宮崎教授のもとには「前代未聞」のスピードで多額の寄付が寄せられた。愛猫家で知られている演歌歌手の藤あや子もそのひとり。今年9月に猫にちなんだ222万2222円を寄付している。

 東京大学によると、8月上旬時点で寄付総額が約2億円に達するなど、全国の愛猫家の注目を集めている。

 東京都の会社員・上川みずきさん(仮名・40)は昨年、腎臓病で愛猫を亡くした。宮崎教授の研究を知り、真っ先に寄付をしたひとりだ。

「同じように苦しむ猫や飼い主はたくさんいます。ほかの猫のためにも、少しでも研究に役立ててもらえたら」

 猫の腎臓病治療には宮崎教授が発見し「AIM」と名づけたタンパク質が大きな鍵を握っている。人の病気を治す医者である宮崎教授は、これまで“治せない”と言われてきた腎臓病やアルツハイマー型認知症などの基礎研究を行うために研究者の道へ進んだ。

 そこで約20年前にAIMを発見し、長年の研究の末にその役割を解明していった。

「私たちは、生きているだけで体内からいろいろな種類の細胞の死骸、ゴミが出ます。人間の血液中にあるAIMは、そのゴミにペタッとはりついて“ここにゴミがあるよ”と示します。そうすると、掃除をする役割の細胞がAIMごとゴミを食べて片づけてくれるのです。肝臓や腎臓にゴミがたまりすぎて病気にならないように掃除をしてくれている。AIMは原始的ながら非常に重要な働きをしています」(宮崎教授、以下同)

 その後、知り合いの獣医師から「猫はみんな腎臓病になってしまう」と聞き、調べてみると……。

猫にも人間同様AIMがありますが、きちんと働いていないことがわかりました。そのため、猫の体内にはゴミがたまり放題になり、腎臓が壊れていってしまうのです。そこで足りない分のAIMを投与すれば腎臓病を予防したり治すことができるのではないかと考え、約5年前からAIMを使った猫用治療薬の研究開発が始まりました」

 治療薬が完成すると猫の未来はどう変わるのだろうか。

「若いうちから猫にAIMを投与していれば、そもそも腎臓病にならないだろうと私たちは考えています。実際に猫の腎臓病治療を行っている獣医師の先生の意見も総合すると、30歳まで生きるのも決して夢物語ではないでしょう」

 その矢先、新型コロナウイルスの影響でスポンサー企業の資金援助が困難になり治験直前で研究は中断。しかし、SNSなどで注目されたことにより寄付が集まった。製薬会社からの声かけもあり、治験再開のめどが立った。

「大きなトラブルなどなく順調に進めば、2年ほどでみなさんのお手元にお届けできるのではと考えています」

 薬にとどまらずAIMの働きを促す成分を混ぜた猫用のサプリメントやフードの開発も同時で進行。こちらは、今年度中の発売が目標だ。

 AIMは猫だけでなく、人間への応用も。これまで治せないといわれてきた病気への治療にも期待できるという。人も腎臓病になれば透析治療をしなければならず、時間もお金もかかり、日常生活に支障をきたす。

「AIMの注射によって腎臓病治療を完結できれば、透析の導入率を下げられるのではないかと考えています。AIMにはその可能性があります」

 猫も人もいつまでも仲よく生きる未来は遠くない──。

宮崎徹教授の近著『猫が30歳まで生きる日』(時事通信社)

《PROFILE》
宮崎徹 ◎東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター 分子病態医科学部門教授。国内外の大学で臨床、研究職を経て2006年より現職。今年8月に著書『猫が30歳まで生きる日』(時事通信社)を出版。

(取材・文/堤美佳子)