役を演じるときのパワーの源とは

 劇団四季研究生を経て、1981年に20代で初舞台を踏む。しかし小柄ゆえに、当初は演じられる役柄も限られていた。ラフィキ役に抜擢されたのは40歳のときで、役者人生の大きな転機になったという。

「最初はもう必死で、いかに自分がこの役を演じられるかということしか頭になかったですね。ラフィキはヒヒのおばあさん。当時は私もまだ若かったので、動きがお年寄りに見えるよう10キロの重りを両腕両脚にそれぞれ4か所つけて稽古をしてました。今の年齢になってはもうそれも必要ないですけどね(笑)」

老ヒヒのラフィキは、次の王になるライオンの子・シンバの成長を見守り、導いていく(c)Disney撮影/荒井健

 広大なアフリカ・サバンナの大地を舞台に、若きライオンの王・シンバの成長を描く作品。物語の中ではシンバを導く、重要な役割で歌唱曲もパワフル。観客を一気に物語の世界へと運んでいく。

 ラフィキの衣装はアフリカのビーズをふんだんに使った贅沢な仕立てで、総重量は6.6キロ。身につけるだけで体力が奪われそうだが、彼女の歌声はエネルギーに満ち、アフリカの大地で逞(たくま)しく生きるラフィキの姿を鮮やかに体現していく。一体そのパワーはどこから湧いてくるのだろうか。

エネルギーって出さないと入ってこないんですよね。出し惜しみをしていると出てこない。何よりこの作品のベースには大地や木、空といったものがあって、ラフィキもそうした大きな見えない何かに守られている感じがします」

 本番の日は、ウォームアップにミーティング、そして自らメイクを手がけ出番に備える。

劇団四季ではどの演目も基本的に役者が自分でメイクをします。ラフィキのメイクは線の角度や位置、使う色など、すべて細かく指定されていて、それはどのキャラクターも同じ。今ではメイクにもすっかり慣れて、30分ほどでできあがります」

 初演から23年間、数え切れないほどラフィキとして舞台に立ち続けてきた。忘れられない公演も多く、過去にはこんなハプニングも──。

「もう20年近く前になりますが、セリが下がる演出でそのまま上がらなくなってしまい、いったん幕を下ろしたことがありました。急遽(きゅうきょ)“ただいま舞台機構のトラブルがあり……”とお伝えし、40分もの間お客さまがロビーで待っていてくださった。再び幕が開いたとき、ラフィキの姿で“何だったのだこれは!”と言ったら、みなさん笑って拍手してくださって。

 今では笑い話にできますが、ひとつ間違えば大きな事故につながります。こういったトラブルが起きないよう、毎日スタッフが入念にチェックしてくれています」