ディナーショー、やるなら「今でしょ!」
──そして、10月からはランチタイム&ディナーショーが全国で開催されています。私は個人的に「趣味を生かした釣り番組に出るのでは」という報道が気になっていたので、こうしたショーも開かれて、正直、とても安心しています。
「ソロでは20年以上ぶりなんですね。退所後は、自分でできる範囲で頑張ろうというだけで、何のプランもなかったんです。実際、いろいろな方面からお誘いはありましたが、まずはファンの方が喜んでくれることを最優先に考えて、音楽の仕事からかな、と考えていた矢先に、ちょうどディナーショーのお声かけがありました。
ディナーショーの仕事はずっとやりたかったんですが、正直、迷いはありました。10年以上、そういった仕事をしてこなかったので。でも、やらなければ何も始まらないし、先方からも“今でしょ!”と急かされたので、前向きに考えました。そのあと、ホテルのラウンジで打ち合わせをした際、そこがかつて(ジャニーズ時代に)ディナーショーをしていたホテルだったんです。あのころの思い出が走馬灯のように蘇(よみがえ)ってきて、“やるしかない!”って覚悟を決めました。
準備期間中は歌とダンス、あとダイエットも、ぜんぶ大変(笑)! 歌はライブで歌っていないぶんだけ、勘を取り戻すのだったり、スタッフと構成を考えて曲を入れ替えたりしていたら、結構な時間がかかりました。今回は、どうしても生音にこだわりたかったったんです。ということは、イチから演奏しなくちゃいけない、生演奏に合わせて歌い方も工夫しなくちゃいけない、というチャレンジの連続でした。
正直な話、(少年隊の)3人でいたときは、ニシキとヒガシ(メンバーの錦織一清と東山紀之)に甘えていた部分もあったと思います。今は何をするにしても、自分で考えなくちゃいけないし、失敗したら俺の責任。だけど、ひとりになってもスタッフが支えてくれていますし、これが成功すれば、また自分の経験にもなりますからね」
──少年隊はダンスもハードですよね。若いバックダンサーの方とのコンビも大変なのでは?
「もちろん、デビュー当時のように2時間半の間、全力疾走ってわけにはいきません。でも、この55歳という年齢でどこまで自分が魅せられるのか、その限界までやってみようと。バックダンサーは20代や30代の子たちを起用していますが、自分との年齢差はまったく気になりません。当初は6人という案もあったけど、4人で十分じゃない? と、自分のハードルを上げたくらいです。もちろん、若さの刺激は受けますが、ついていけないとは感じないですね。
それよりも大変だったのは、今の子たちのダンスは、僕らのとは、かなり異なっていることです。僕らの基本はヒップホップじゃなくてジャズダンスなので、ジャズを基礎にしている子たちをオーディションで選びました。それでも、実際にステップを踏んでみると、同じジャズといえども、僕らの世代が細かく踏んでいたステップを、今は省略しがちなんですよ。だから、自分が教わってきたものや経験したこと、吸収してきたものを教えている感じですね。
しかも、僕の目指すものは、誰かひとりだけがやっていたものではなく、3人の絶妙なバランスでできたものなんです。それは、長年の阿吽(あうん)の呼吸で築きあげてきたもので、そこに合わせてもらうのが大変でした。手ぶりはあまり問題じゃないんですよ。いちばん大事なのはステップ。体重移動が難しいんです。今の時代は、手ぶりばかりに気を取られて、下半身が疎かになりがちなんですよ。そこを丁寧にやってもらっています」
──あのシビアな東山さんが、歴代のジャニーズの中でダンスがうまいTOP3は「ニシキ、俺、かっちゃん」とおっしゃっていますもんね。そして、初日の東京公演を迎えられました。
「初日は、そもそもディナーショーだけのつもりだったんですが、あまりに応募が殺到したのでランチタイムショーもすることになったんです。最初、ディナーショーの前の時間にゆっくりとリハーサルができると思っていたんですが、ランチタイムショーもするとなると、どちらもぶっつけ本番みたいになるんじゃないかって、不安になりました。でも、それだけ応募があるというのなら、やるしかないでしょ! と。
ショーの中ではピアノの弾き語りを入れてみようとか、踊ってみようとか細かく構成を練りましたが、いよいよショーが近づいてくると、逃げたくなるクセがあって(笑)。“もう、無理無理無理……”って思っちゃうんだけど、もうひとりの自分が“逃げちゃダメだ! 逃げちゃダメだ!”って心の中で叫ぶんですよ。それで乗り越えました。
ランチとディナーのショーが両方ある日は、リハーサルも通しでやるので、実は1日4公演ぶん歌っています。途中、何曲か抜いてリハーサルすることもできるんだけど、やっぱり生音とダンスのステップの確認をちゃんとしたいので、ひととおりやっちゃう。そのおかげで体力もつきましたよ!
それと、昼公演と夜公演は、重なっている曲が4曲しかないんですよ。つまり、両方ある日は1日で40数曲、歌っているんです。やっぱり1曲でも多く聴いてもらいたいですからね。自分で選んだはいいけど、いざ取り組んでみたら“俺が歌うの? やっちまったな……”と、少し後悔しました(笑)。だけど、知り合いから“絶対、40曲も歌えないだろう~”って言われると、“クソー、やってやる!!”って気持ちになって、頑張ってるんですよ。
さらに演出面では、後方の席のほうにも近づけるように工夫しています。何十年もショーをしていないぶん、近くに行きたいから。ファンの方たちも(手を触れるなどなく)決して進行を妨げないよう配慮してくれて、ありがたいですね」