妄想がパンパンに膨らむ
当時のアドベンチャーゲームは「ポートピア連続殺人事件」「オホーツクに消ゆ」や「探偵神宮寺三郎 新宿中央公園殺人事件」といったラインナップでした。
殺人事件を解決していくという、いわば探偵ドラマをモチーフした作品が主流でした。
それゆえ、ストーリーはハードなもので、大人も満足できるようなシリアスなゲームになっていました。
当時の子どもは背伸びした体験はできるものの、やはり大人向けという印象が強かったのがアドベンチャーゲームというジャンルでした。
そこに登場した「ファミコン探偵倶楽部」に、ゲームキッズだった僕は「ようやく僕向けのアドベンチャーゲームが来た!」と喜々として発売を待ちました。
宣伝のビジュアルを見る限り、なかなかシリアスな事件が起こりそうな雰囲気こそあれど、主人公らしきキャラクターは少年だし、何よりタイトルに「ファミコン」がついていることにいろんな想像を膨らませました。
ファミコンを使って事件を解決するんじゃないか。
普段ファミコンで遊んでいる仲間で結成した探偵団の話じゃないのか。
ファミコンに関する事件が起こるんじゃないか。
これまでにない明るく楽しいアドベンチャーゲーム体験を期待していざゲームスタート。
ファミコン探偵倶楽部 ちょうさかいし!
と、パンパンに膨らませた妄想は、あっという間にぶち壊されます。
おもしろいのは間違いない!でも・・・
待っていたゲーム内容は・・・。
記憶喪失の主人公。
遺産相続でいがみ合う家族。
残酷で奇怪な連続殺人。
そして頼りにしていた大人の裏切り……。
とハードすぎるネタの連発でした。
まぎれもなく、ファミコン最高峰のシリアス系アドベンチャーゲームがここに誕生したのです!
息もつけないテンポ感と想像の上をいくストーリー展開。さらに魅力的なキャラクターと場面設定が没入感を高いものにしてくれます。ファミコンでここまでのアドベンチャーゲームを作ってくれたことに全国のユーザーが舌を巻いて没頭しました。
でも、何かが違うのです。思っていたものと違うのです!
おもしろいのは間違いないのですが、全くもって明るくないし、お茶の間で遊んでいると家族がゲームにひきこまれて会話が止まってしまうのです。
そもそも、タイトルにある「ファミコン」がストーリーに全然出てこないのです!
「ファミコン探偵倶楽部」という団体、組織はゲーム中には出てきません。
主人公が属する探偵事務所は「空木探偵事務所」であり、「ファミコン」でもなければ「倶楽部」でもありません。
タイトルから「元気で明るい少年少女がファミコンを使って難事件を解決するゲーム」を想像していたユーザーの期待は見事に裏切られてしまったのですが。(幸い、このタイトルはいい意味でも裏切りでしたが。)
名前やタイトルだけで勝手にイメージを膨らませると大体、裏切られます。
ファミコン探偵倶楽部を経験しているあなたなら、もうそんな失敗はしないことでしょう。
(文/野中大三)
《PROFILE》
ゲームとプロレスをこよなく愛するコラムニスト兼ドット絵師。電子玩具開発を経て、株式会社カプコンでテレビゲームのプロデューサーを務め、オリジナルタイトルや人気シリーズタイトルのプロデュースを手がける。現在も電子ゲームの開発に携わっている。35年にのぼるプロレス観戦歴とゲームプレイ歴の経験から日本最大のプロレス団体、新日本プロレスオフィシャルサイトでコラム「ゲーム的プロレス論」を連載中。プロレスラーをドットで表現する「dotswrestler」をTwitterで公開中。