子宮頸がんは婦人科がんで唯一ワクチンで予防できるがん

 原さんは、がんの予防や検診の普及活動に長く携わってきたが、とくに注目してきたのが子宮頸がんワクチンだ。子宮頸がんの95%はヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因であり、HPVワクチンの接種が予防に有効だとされる。「子宮頸がんは、婦人科がんのなかでは唯一予防が可能ながんなんです」

 HPVワクチンは、日本では2013年から予防接種法による定期接種の対象になっており、小学校6年生から高校1年生の間は無償で受けられる。ところが、接種した少女たちから、疼痛や歩行障害、記憶障害などの訴えが相次ぎ、テレビでその映像が繰り返し放送されるなどメディアが大きく取り上げた。その結果、厚生労働省は2か月後に積極的な接種の呼びかけを中止。7割ほどだった接種率は大きく低下し、現在も1%ほどだ。

 積極的勧奨中止から8年あまり、接種を続けた諸外国の多くが子宮頸がんの罹患率、死亡率が減少傾向にある一方、日本では上昇傾向にある。そのなかで国は、HPVワクチンの安全性が確認できるエビデンスが蓄積されてきたとし、ようやく2021年秋に、積極的勧奨を来年4月から再開することを決めた。HPVワクチンについて、原さんとも交流がある宮城悦子医師(横浜市立大学医学部産婦人科学教室教授)に話を聞いた。

「HPVワクチンは、海外での大規模な臨床試験の結果、がんに進みやすい状態である中等度異形度以上の病変を70%予防する効果が証明され、その後の海外からの報告から、すでにある程度進行した浸潤子宮頸がんの減少も報告されています。

 また、日本ではHPVワクチンの副作用が大きく取り上げられましたが、接種の有無にかかわらず、同様の症状の発生頻度に差はないことが、日本人を対象にした国内の調査で明らかになっています

 さらに宮城医師が強調するのは、ワクチンの予防効果は100%ではなく、「併せて早期発見のためには定期的な検診も欠かせない」ということだ。乳がんについても検診が第一。また自治体で検診が行われていない子宮体がんや卵巣がんについても、不正出血や下腹部痛など少しでも異変を感じたら、ためらわずに婦人科を受診してほしいという。

「私はがん治療医として、大切なお嬢さんをがんで亡くされた親御さんの悲しみと無念を目の当たりにしてきました。ぜひ、親御さんと娘さんで、まずワクチンに対する正しい知識を持って、接種について話し合う機会をもっていただきたいと思います」

 原さんによると、患者さんの状況はそれぞれに違っても、だれしもが口にするのが、“もっと早く病院に行けばよかった”という言葉だという。「忙しかった」「つい後回しにした」、そこに落とし穴があった。

「サインがあったらすぐに受診することはもちろんですが、もっと大切なのが、症状がないうちに行動すること。コロナ禍での検診控えも問題になっていますが、がん検診は不要不急の用ではありません。ぜひワクチン接種やがん検診の機会を逃さず、安心を手に入れてください。そしてご自身と家族の未来を、何よりも命を、守ってほしいと願っています」(原さん)

(取材・文/志賀桂子)

《PROFILE》
しが・けいこ/フリーライター、エディター。健康情報誌を中心に20余年にわたり、医療、健康関連記事の取材、執筆に従事。主に認知症、がん、生活習慣病などをテーマに、医療従事者および患者のインタビューを数多く手がける。最近では『安心な認知症』(主婦と生活社)の編集・執筆に携わる。