南無阿弥陀仏はヒットチャート1位!? 野生のブッダとは?

──ミュージシャンの向井秀徳さんは、『NUM-AMI-DABUTZ』(南無阿弥陀仏)という曲名をはじめ、ライブのMCでも「くりかえされる諸行無常」というフレーズを多用されています。稲田さんから見て、音楽に仏教を取り入れた作品をどのように感じていますか?

「向井秀徳さんがよく歌っている“くりかえされる諸行無常”っていうのは、なんかもう当たり前だけど、むしろお坊さんよりもありがたいっていうか(笑)。そういうふうに見ています。僕も普通にファンですし」

──このように音楽や文化の中に仏教的思想があるのも、当たり前なのですか?

「当たり前ですけど仏教は僧侶だけのものではないです。日本文化の根底に仏教があって。例えば昔の和歌は仏教的な美しさを唄っているものだし、落語も走りは法話だし、笑いのルーツも仏教。実は“南無阿弥陀仏”って、当時のヒットチャート1位のような、音楽的な役割を持っていたんですよ」

──古くから親しまれていたもので、特別なものではないのですね。

一遍(注:いっぺん・鎌倉中期の僧侶。踊念仏で知られる)はヒッピーの先駆けとも言えます。踊りながら村と村を移動する。湖の上に櫓(やぐら)を建ててそこで毎晩踊りあかしたりとか。お坊さんじゃない人でも仏教の享受者として、それを表現する人が当たり前のようにいます。“わびさび”もそうですね。千利休は、仏教的な感性を文化的に組みなおしたものだと僕は解釈しています」

──僧侶でなくても、仏教的思想を作品で表現しているのですね。

「僕はそれをよく“野生のブッダ”と呼んでいます。仏教を意識せずとも仏教的な感性にたどり着いている。野生のブッダなんです」

――現代では誰でしょうか?

「BUMP OF CHICKENのフジ君(注:藤原基央・ボーカル、作詞作曲を手掛けている)とか、ブッダ的。星野源さんも野生のブッダ。二人とも歌詞におけるテキストの引力が強いんです」

──例えば、彼らのどういう部分がブッダ的なんでしょうか。

「例えば、フジ君なら『宇宙飛行士への手紙』の時間の捉え方、星野源さんなら『ばらばら』における存在の捉え方がめちゃくちゃブッダ的です。​あとは、やはりハロー! プロジェクトですね」

稲田ズイキさん

──稲田さんは、著書の中で《『大般若経』とはモーニング娘。なのだ》と、つんく♂プロデューサーが生み出したハロー! プロジェクトが仏教に通じると論じていますね。

「好きに書いてもいいですよって言われて書いたコラムをまとめたので、ふざけた本ですよね(笑)。編集者から“意味がわからないんですけど、本当にこの内容でいいですか”って言われて。“意味がわからないから成り立っているんですよ”って言ったりして。そうしたら、確認用の原稿が戻ってきた時に、校閲担当者からも赤ペンで、“意味不明です”っていう指示が入っていたんです」

──そんな校正は見たことがないですね(笑)。

「でも夢の中にモーニング娘。が出てきたことがあるんです。それは修行中、冬の寒い日だったので、それを忘れさせてくれるような夢でしたね。菩薩って、“誓願”という誓いを立てて仏になるために修行しているんです。そのときにアイドルもそういうことなんだなって思いました」

──全盛期の山口百恵さんや広末涼子さんも菩薩という言葉で例えられていました。

「なんでアイドルはアイドルなのか。そこには誓願があるんですよね。恋愛禁止というようなルールだったり、武道館を目指すという目標だったり、誓いを立てている。その上で青春をささげて活動するわけです。なにかを引き換えに頑張っていることがファンの前で約束されている。だからただの人ではなく、僕らの心の中で一つ上の次元の存在として輝くんだと思います