つんく♂の歌詞から読み取る“一粒粟中蔵世界”の教え
──つんく♂さんの世界観は、ほかのJ-POPとどういう部分が違うのでしょうか。
「僕が好きなのは、日常と地球がつながっていると歌うところ。試験勉強の歌なのに、急に地球の平和の話になっているとか(笑)。その尺度のスケールが大きいんです」
スキな人は居るけど絶対教えない
陰で努力してても何食わぬ顔で生きちゃおう
この地球の平和を本気で願ってる
(モーニング娘。『この地球の平和を本気で願ってるんだよ!』の歌詞より引用)
──スケール感が違うんですね。
「僕の好きな仏教の言葉で“一粒粟中蔵世界”(いちりゅうぞくちゅうにせかいをぞうす)というのがあるんですけれど、それもつんく♂イズム。世界はでかいものだと思っているけれど、自分の中の小さな世界と同じ。小さな世界でほのかな努力をすることが、世界規模の影響を持っているんです」
──ほかにも、つんく♂イズムを感じさせるフレーズってありますか?
「『What is LOVE?』(モーニング娘。'14)もそうですよね。《たった一人を不安にさせたままで 世界中幸せに出来るの》っていう、いいフレーズがあるんです。なんで世界中、幸せにせなあかんねんっていう気持ちもあるんですけど(笑)、誰もが主語を大きくして世界中のことを考えているけど、目の前の一人のことを忘れてしまっている。あと、『I WISH』の《晴れの日があるから そのうち雨も降る》。すごいフレーズだなって思って、聴くと泣くんですけど」
──どういった部分に、ブッダを感じますか?
「普通は雨の日があるけど、そのうち晴れるって言うじゃないですか。でもつんく♂さんはネガティブな要素をネガティブとして捉えず、“あるもの”として歌うんです。その上でサビで《人生ってすばらしい》ですよ。そもそも人生はコントロールできないものとして仏教では“一切皆苦”って言いますが、そんなこと抜きにしても泣いちゃいますねこの曲は」
──一切皆苦ですか……。
「つんく♂さんの歌詞には一貫した世界観がある。“一即多多即一”という言葉があって、一瞬が永遠であって永遠が一瞬である、一は全であって全が一であるとか、つんく♂さんは目の前の“一”を絶対におろそかにしないですね」
──稲田さんのお話を聞いていると仏教が身近に感じられて面白いのですが、ご自身の中では、親しみやすいカルチャーを使って仏教を説いているという感覚はありますか。
「周りからは“わかりやすい例えだから使っている”って言われるんですが、そうじゃないんですよ。ずっとそういうふうに物事を見てきているんです」
──最初(第1回)にお聞きした、“2つの異なったものを結び付ける力”ということにつながりますね。
「“山川草木悉皆成仏”(さんせんそうもくしっかいじょうぶつ)っていう、あらゆるものが仏になれるっていう仏教の教えなんですけど。宮沢賢治が『銀河鉄道の夜』で描いていた世界が、まさにその思想なんだと思います。常に生と死の狭間(はざま)。目覚めた瞬間に、銀河鉄道の列車の中にいる。ああいうことですね」
──例えば、日常の中での仏教的思想ってどういう瞬間ですか。
「Spotifyから流れてくる向井秀徳の音楽を聴いて、この世界の諸行無常さをイメージする。母が作ってくれる毎朝のみそ汁を飲んで、そこに仏の世界を感じる。日常的なものに仏教を感じられれば、乾燥した自分の人生が少しずつ潤っていく感じがします」
なにやら小難しいイメージがある仏教。じつは、日常生活の中から仏教的なものを見つける視点を持つだけで、人生が少し生きやすくなる。そういう存在なのかもしれない。
(取材・文/池守りぜね)
《PROFILE》
稲田ズイキ(いなだ・ずいき)
僧侶。1992年、京都久御山町の月仲山称名寺生まれで副住職。同志社大学を卒業、同大学院法学研究科を中退、その後デジタルエージェンシー企業インフォバーンに入社。2018年に独立し、文筆業のかたわら、お寺ミュージカル映画祭「テ・ラ・ランド」や失恋浄化バー「失恋供養」、アーティストたかくらかずきとの共同プロジェクト「浄土開発機構」など、時々家出をしながら、多方面にわたり活動中。フリーペーパー『フリースタイルな僧侶たち』の編集長。