ポートピアと言えば「犯人は〇〇

 しかし、この評判は、のちに厄介な情報まで運んでくることになるのです。

 そうです。これもまたご存知の方は多いでしょう。有名すぎるこのフレーズです。

「犯人はヤス」

 聞いたことありますよね? ポートピアと言えば「犯人はヤス」なのです。

 読んで字のごとく犯人のネタバラシなのですが、この「犯人はヤス」という事実は、長いプレイを通して最後の最後に巡り合うことで、深いヒューマンドラマを伴って大きな感動を与えてくれるのです。

 なぜ、ヤスは犯人になってしまったのか?

 ヤスはどのような過程で犯行に手を染めたのか。

 そして、ヤスが犯人であると突き止められた過程とはどのようなものなのか。

 事件とプレイヤーとをつなぐ人間模様がそこにはあるのです。

 しかし──

 そんな深い味わいなど意に介さない無慈悲なゲームキッズたちが、この「犯人はヤス」を言いふらしたのです。

「なんだかわからないけど、ポートピアと言えば『犯人はヤス』なんでしょ?」

 くらいの軽いノリで広められたこの痛恨のネタバラシは、あっという間に日本列島を駆け巡ります。

連続殺人よりもネタバレのほうが大事件

 その結果、どのようなやりとりが行われたかと言いますと。

「どうして、犯人を言っちゃうんだよ!」
「なんで、それ言うねん!」
「なして、そいば言うんやけどか!」
「なじょして、そればへるはんで!」

 といった具合に日本全国で断罪が行われたのです。

 もはやポートピアで起こった連続殺人よりもネタバレのほうがよっぽど大事件だろうと思うくらい話題になったのです。

 当時のゲームキッズたちが、このゲームが持つ魅力、おもしろさ、深みを1ミリも想像することなく、聞いた情報を軽い気持ちで口にした結果がこれなのです。

 話を戻しましょう。

 現代は情報化社会であると同時に、娯楽があふれるエンタメ産業時代です。作品の本質を知ることもなく、生半可な知識を披露することはとても大きなリスクを伴います。

 それでも生半可な知識で会話に入っていきたい! そんなときは、このフレーズが起こした大惨事を想像して言葉を飲み込みましょう。

 あなたのひと言は、現代の「犯人はヤス」になりかねませんよ。

(文/野中大三)

《PROFILE》
ゲームとプロレスをこよなく愛するコラムニスト兼ドット絵師。電子玩具開発を経て、株式会社カプコンでテレビゲームのプロデューサーを務め、オリジナルタイトルや人気シリーズタイトルのプロデュースを手がける。現在も電子ゲームの開発に携わっている。35年にのぼるプロレス観戦歴とゲームプレイ歴の経験から日本最大のプロレス団体、新日本プロレスオフィシャルサイトでコラム「ゲーム的プロレス論」を連載中。プロレスラーをドットで表現する「dotswrestler」をTwitterで公開中。