「正反対の性格の二人が一緒にいる意味は?」演出家や共演者らと考え続けていた

 先ほど、ポールは新婚生活を始めたばかりの新米弁護士だとお話ししましたが、彼は育ちがよくて勉強もでき、レールに乗って弁護士を目指した堅物、とバックグラウンドを想像して、現在のあり方やどういう未来を描いているのかなど、方向性を考えています。「ポールは妻のコリーとは真逆の性格なのに、一緒にいる。その意味ってなんだろう」ということがいちばんのポイントなので、演出家の元吉庸泰さんと考えた末に、「これはもうわからない。運命的な出会いをした、としか考えようがない」と結論づけました。“運命”という言葉は、そんなに安易に使いたくはないのですが、「この二人が一緒にいることは神が与えた試練である」と解釈しています。

 育ってきた環境や、生きていく上での考え方が違う。ボールはまじめだから引き下がれないし、男としてきちんと振る舞わないと未来はない、とわかっている。コリーはコリーで、「いや、大切なのは今の気持ちでしょう」と、今その瞬間を大切にする人。だから二人にはもう、言葉では説明しきれない感情のすれ違いがある。そのすれ違いみたいなものがとても切なくて、「お互いにちょっと寄り添えばいいのに。そんな難しい問題じゃないのに」と、じれったくなる。二人がつまらないことでこじれるからこその面白さもあるんです。物語のなかで描かれるのは、誰しもが共感できる、ささいなすれ違いばかりなんですよね。

 稽古を進めるうちに、「ポールは友達が少ないタイプで、まわりから“ウザい”と避けられていた。そんななかで、天然の太陽みたいなコリーが、自分を差別しないで手を差しのべてくれた。そういうところに惹かれたのかな」と思えるようになりました。コリーとしては、彼の不器用さを目の当たりにして助けてあげたくなる。コリーにとって、ポールは大きい犬みたいな存在なんです。コリー役の高田さんとは、そんな物語をシェアし合っていて、現場ではときどき、「あー、よしよし」みたいな感じで頭をなでられているんですよね。

みんなで意見を出し合いながら役作りできる環境はありがたい、とほほえむ 撮影/伊藤和幸
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俳優・山崎育三郎さんと演出家・小池修一郎さん、二人との出会いが運命を変えた

 今は役者として映像も舞台もたくさんのお話をいただき、ありがたく思っていますが、芸能界に入るまでは、芝居をしたいとは考えたこともなかったんです。単純に、「芸能人になりたい、テレビに出たい」と思って『ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』に応募しました。そこでファイナリストになったのがきっかけで、芸能界に入ることができたものの、そのときも役者になりたいという思いは一切ありませんでした。

 でも、なんの目標も持たずに漠然と芸能界に入ってしまったので、すぐに壁に当たって挫折してしまいました。甘かったんですね。1年半くらい活動を休止して、芸能関係から身をひいた時期もありましたが、音楽がやりたくて、ミュージシャンとして改めてデビューしました。そのころも役者にはまったく興味がなく、声をかけられたとしても、やる気はありませんでした。芝居はそれほど好きではなかったし、むしろ人前で演じるなんて、苦手だったんです。

 初舞台となったミュージカル『テニスの王子様』のオーディションを受けたのも、音楽ライブをやるにあたって経験がなかったので、人前で歌う度胸を培うのが目的でした。『テニスの王子様』の原作が大好きなので、オーディションに受かったこと自体はうれしかったですが、芝居に出てみたい、というよりは、好きな原作に関わってみたかった、という消極的な動機でした。

「あのころの自分に対しては反省することばかりで……」と振り返る 撮影/伊藤和幸