「後から前から」の畑中葉子、山口百恵の神対応や37年ぶり新曲への思い語る「言葉ひとつで救われることもある」

新曲「夜雲影」に込めた思いとは？ 畑中からリスナーへの温かいメッセージ

　そんな畑中だが、'22年10月19日には、メジャーとしては37年ぶりとなる新曲「夜雲影」を配信リリース。本作は、彼女の持ち味であるキャンディ・ボイスを封印し、《♪生きたいよう　生きれば良い》というメッセージを、声を張らずに静かに語りかけるように歌うという深遠なミディアム・ポップスとなっている。どういった経緯で作ったのだろうか。

「コロナ禍で自死している人も少なくないので、そういう方が少しでも踏みとどまるキッカケになってくれればと思い、圧をかけないよう自分に語りかけるように歌いました」

「夜雲影」のジャケット。イラストは洋画家の今井喬裕が手がけている

　畑中は、今回のみならず東日本大震災のときも、チャリティーCDに参加したり、震災を題材とした映画『青いソラ白い雲』に出演したり、困っている人に寄り添うような活動スタンスをとっている。その原動力となっているのは何なのだろうか。

「実は、私の歌手デビューを応援してくれていた父が、16歳のときに他界して生活が一変しちゃったんですね。そういうときに、周囲には冷たい反応をする人も多かった。逆に、困ったときこそ声をかけてくださる存在は尚更ありがたくて、自分もそういう人になりたいと思っています。つらいときって、言葉ひとつだけで救われることもありますよね。自分が生きている限り、周りの方にもできることはやりたいですね。お節介なんですよ、私って（笑）」

　シリアスな表情を見せた本作のミュージックビデオも、本人の意向に沿ったものだ。

「今、死のうと思っている方に笑顔で歌いかけるのはどうか？　と思い、素の表情で歌うことにしました。オープニングで映る当時のモノクロ写真は監督のアイデアですが、“畑中葉子にもこういう時代もあったんだよ”というメッセージになっているんだと思います」

　じっくりと胸に響くような楽曲なので、今後、じわじわと浸透することを期待したい。最後に、サブスクのリスナーや読者に向けてメッセージを送ってもらった。

「若い方には、“人生、意外と短いから楽しんだほうがいいよ。この歌のように、やりたいことをやったほうがいいよ！”と言いたいです。あと、私はライブで集客できずに落ち込むこともあるんですが、こんなにたくさん聴いていただけていて、自信がつきました。今後は、より希少価値を出すために、“会いたくても会えない歌手”になろうかな？（笑）」

　今回、自ら各メディア関係者に連絡を取ってプロモーションを働きかけたという、バイタリティーあふれる畑中葉子。渋々に引き受けたセクシー映画への出演回数が4本に増えたのも
（その場にいた社員全員に土下座され会社の危機感や彼らの家族を考えてしまった）、恩師・平尾昌晃の楽曲を集めたアルバムを制作したのも、そして今回、コロナ禍で苦しむ人へのメッセージソングを発表したのも、すべて彼女の人情深さがあってのこと。彼女のそういった利他的なマインドは、情報化が進むにつれ、その対極としてますます重要となっていくことだろう。だからこそ、彼女の高い音楽性に裏打ちされた確かな楽曲が、今後さらに聴かれていくことを大いに期待している。

Spotifyでの畑中葉子アーティストページも要チェック！（数字は2022年11月現在の累計再生回数）　※画像をクリックするとこの写真と同じページにジャンプします

（取材・文／人と音楽をつなげたい音楽マーケッター・臼井孝）

【PROFILE】
畑中葉子（はたなか・ようこ）　◎1959年、東京・八丈島生まれ。'78年「カナダからの手紙」（恩師・平尾昌晃氏とのデュエット）でビクターよりデビュー。同年の第29回NHK紅白歌合戦に出場したほか、レコード大賞、日本歌謡大賞、FNS音楽祭で特別賞、新人賞などを受賞。その後ソロ歌手に転向し、'80年に「後から前から」を発売、映画『愛の白昼夢』で女優デビュー。子育てによる休業を経て'10年に完全復帰。デビュー40周年の'18年には前年に亡くなった平尾昌晃氏のトリビュートアルバム『ラブ・レター・フロム・ヨーコ』を発売。 '19年のソロデビュー40周年と還暦に向け準備していた企画CDが頓挫し、ブックレット掲載のために用意されていた還暦ヌードがデジタル写真集「後から前から」として発売。'22年には37年ぶりの新曲「夜雲影（やうんえい）」を配信リリースした。