今、若い世代からも、また海外からも熱い注目を浴びている昭和ポップス。昨今では、音楽を聴く手段としてサブスクリプションサービス(以下「サブスク」)がメインで使われているが、必ずしも当時ヒットした楽曲だけが大量に再生されているわけではなく、配信を通して新たなヒットが生まれていることも少なくない。
そこで、本企画では1980年代をメインに活動した歌手・アイドルの『Spotify』(2022年7月時点で4億3300人超の月間アクティブユーザーを抱える、世界最大手の音楽ストリーミングサービス)における楽曲ごとの再生回数をランキング化。当時のCD売り上げランキングと比べながら過去のヒット曲、現在のヒット曲を見つめ、さらに、今後伸びそうな“未来のヒット曲”へとつながるような考察を、本人または昭和ポップス関係者への取材を交えながら進めていく。
今回は、'80年代アイドルとしてシングルのみならず、アルバムでも20作前後のTOP10級ヒット
ソワレは歌手、イベントプロデューサーでありながら新宿エリアで数店舗の飲食店を経営、さらには元宝塚歌劇団の歌手・越路吹雪の作品解説や監修も手がけるなど多岐にわたって活躍しているが、実は、自身で『河合奈保子トリビュートライブ』も行えるほど、大の“奈保子博士”としても有名なのだ。なお、インタビューには'00年代からの数多くの河合奈保子作品を制作してきた日本コロムビアの衛藤邦夫ディレクターにもご同席いただいた。
ちなみに、ソワレ自身はレコードとYouTubeが中心で、まだ音楽ストリーミングサービスは使いこなしていないものの、店のスタッフがプレイリストを作っているのを面白く感じているという。まずは、ソワレが奈保子の楽曲に出合ったきっかけから語ってもらった。(以下、ソワレによるコメントは「ソ」、衛藤氏によるコメントは「衛」マークを付記)
小学生のソワレ少年を骨抜きに! 河合奈保子が“推し”になった瞬間とは
ソ「ひと言でいえば、ひと目惚れですね。うちは父が音楽業界にいて、(仕事上、非売品のレコードをもらえたりするので)家には(奈保子所属の)日本コロムビアじゃないメーカーのレコードがどっさりあったのです。八百屋さんが野菜を買わないように、レコードは買わないものとして育ってきました。
だから、テレビで奈保子さんを見たときに“この人は、きっとすごいぞ”と思いつつも、まるで隠れキリシタンのようにこっそり注目していたのですが、忘れもしない1981年の8月! 人気音楽番組『夜のヒットスタジオ』(フジテレビ系)で『ムーンライト・キッス』を歌っている奈保子さんを見た瞬間に、彼女のレコードを買おうと決めました。当時、まだ小学生だったから、“レコードなんて買うもんじゃないよ”という親の言いつけを守っていたのですが、“あぁ、これはもうダメだ……”って、すっかり虜(とりこ)になってしまいました。
自分でもおかしいんですけど、今でも新曲を初めて聴いた番組のことをよく覚えているんです。『愛をください』は『ヤングおー!おー!』(毎日放送系)だったり、『エスカレーション』は『レッツGOアイドル』(テレビ東京系)だったり……。シングルでいちばん好きな曲は、やっぱり『唇のプライバシー』ですね!」
早くも興奮冷めやらぬソワレとともに、ここからは令和のストリーミング人気曲を見ていきたい。
人気映画への登場で「けんかをやめて」が「スマイル・フォー・ミー」をリード
Spotify第1位は、「けんかをやめて」。第2位は「スマイル・フォー・ミー」と、この2作は毎月のようにデッドヒートを繰り返していたが、11月に入って「けんかをやめて」が急増中だ。
衛「これは、長編アニメーション映画『すずめの戸締り』の中で使ってもらっている影響ですね。新海誠監督が、“このシーンには河合奈保子さんの『けんかをやめて』がピッタリだね”ということで使用されることになったようです。それで、このタイミングで、プレイリスト上に『けんかをやめて』の当時のジャケットが表示されるように改めて配信しました」(※それまでは、アルバム『ゴールデン☆アイドル』や『ゴールデン☆ベスト』の収録曲としてアルバムジャケットが表示されていた)
この公開を記念したプレイリスト『新海誠 音楽の扉』の効果によって、冒頭のランキング表を作った2週間後(11月中旬)には再生数が5万回も増えており、年内には奈保子初のSpotify100万回再生も突破しそうだ。
ソ「『けんかをやめて』は初めて聴いたとき、“こう来たか!”って思いましたね。振付もないし、歌詞の内容があまりに個性的で……。でも、奈保子さんが“私のために争わないで”と歌っているからこそ、フェミニンな曲に仕上がって人気になったんだと思います」
確かに、作詞・作曲を手がけた竹内まりや本人も“奈保子ちゃんが歌うとすごく可愛いのに、私が歌うと、ひどく傲慢(ごうまん)な女性に聞こえるのはなぜだ?(笑)”とコメントするほど、彼女の表現力を高く評価している。「スマイル・フォー・ミー」はどうだろうか。
ソ「こちらは最初から大好きでした。この曲以前に発売されたアルバムの中には、1stアルバム『LOVE』に収録された表題曲など、元気ハツラツな爽やかポップスがあったのですが、シングルでは、そういう展開の曲がなかった。歌詞も、スマイルという言葉が奈保子さんにピッタリですね! オリコンの週間ランキングで一気に17位から5位に上がったのも、うれしかったな~。ほかにも、雑誌『オリコン・ウィークリー』で最初にカラーの表紙号になったのは奈保子さんだとか、スタンドマイクが2種類あったとか、この歌はネタが尽きないですね」
ちなみに初登場17位となったのは、月曜日発売だったため、前週の週末からフライングで仕入れていた店舗の売り上げが前週チャートに約1.2万枚、漏れてしまったことによる。もし、この売り上げを同じ月曜日発売の中森明菜「DESIRE」や少年隊「デカメロン伝説」のように1週間内に収めていたとしたら、初動売上は4.5万枚で週間3位と、その2年後の「エスカレーション」で達成した順位が、早々に実現していたかもしれない。それほど最初から大きく支持されたのだ。