いろいろな意味で話題をかっさらった「エスカレーション」が人々を魅了するワケ

 そして、Spotify第3位は、当時のレコード売り上げ最大のシングル「エスカレーション」。これまで奈保子作品の解説も手がけてきたソワレだが、本作については“ファンは喧々諤々(けんけんがくがく)”と語っている。その背景を尋ねてみた。

ソ「理由としては……髪型をバッサリと短くしたイメージチェンジによるところが大きいですね。初期からのファンの方は当然、保守的になるでしょうから、ご自身の河合奈保子像がそれぞれにあって、ショックだったんじゃないでしょうか。ひとつ前のシングル『ストロー・タッチの恋』が、“青空が回るほど抱き上げるなんて無理だろ!”とか、“片方のヒールを渚に隠したら熱くてたまらないだろ!”とか、歌詞へのツッコミどころ満載のドリーミーな曲だったのに、今作は歌詞も音もビジュアルも刺激的で、ことごとくイメージを覆していますだから、まさかこんなに売れるとは思っていませんでした(笑)! オリコンだと34万9000枚でしたからね」

「ちょうどこのころ、(早見)優ちゃんの『夏色のナンシー』、KYON2(小泉今日子)の『まっ赤な女の子』、そして奈保子の『エスカレーション』と、筒美京平作品で個々のステップアップを図ったものが、時代の波に乗ったんでしょうね」

衛藤ディレクター(写真左)の分析に、ソワレも興味津々 撮影/近藤陽介

 とはいえ、そういったインパクト重視のいわゆる“出落ち型”ヒット曲は、時が過ぎるとさほど支持されないものも多い中で、Spotifyでも第3位と健闘している。つまり「エスカレーション」は、ちゃんと“記録にも記憶にも残るヒット曲”になっているのだ。

ソ「ただ、'15年のファンの方による投票型ベストアルバム『私が好きな河合奈保子』では9位ですし、コアなファンの間では、今でもそこまで人気が高くないのかも……。でも、改めて考えてみると、有線放送では『けんかをやめて』が最高12位だったところ、『エスカレーション』で9位と、初めてベストテン入りしているんですよね。しかも、発売から2か月もたってからランクイン。当時の女性歌手の有線ヒットは、演歌か聖子、明菜、ときどき(柏原)芳恵くらいのイメージだったので、本当にビックリでした。それを考えると、(コアファンではなく)大衆的に支持されるチカラが根底にあるんでしょうね!」

「ここまでの3曲が50万回再生を大きく上回っていて、ほかの楽曲と広がり方がまったく違うのがわかりますね」

ソ「ラジオ番組『決定!全日本歌謡選抜(※)』でいうところの、第1グループですね!  “第1グループは、けんか、スマイル、エスカレーションでした~♪”なーんて(笑)」(※ '76年~'90年に文化放送系列で放送されていた伝説の大型リクエスト番組)