初主演作の役作りは「無茶をした」。草なぎ剛や矢本悠馬から受けた影響とは

 今ではさまざまな役どころを演じる田中さんが原点だと語る作品は、初主演を飾った映画『ダブルミンツ』(’17年6月)。

「漫画原作ということもあって、ビジュアルを寄せていくことを重視して、そこに集中した作品です。漫画のキャラクターが持っている線の美しさを表現したくて、14キロの減量をしました。やせていく段階で、身体だけじゃなくて心も削れていく感覚がすごくあって、いま振り返ると、ずいぶん無茶をしていたなって思いますね。

 若かったから無茶した部分もあるし、それも、当時の僕だったからできたんだろうなって。役ととことん向き合うという観点で言えば、原点はこの作品でした」

『第44回日本アカデミー賞』最優秀作品賞を受賞した映画『ミッドナイトスワン』(’20年9月)では、こんな出会いと発見が。

「主演の草なぎ剛さんとの共演には、とても刺激を受けましたし、勉強になりました。凪沙(ニューハーフショークラブで働くトランスジェンダー)という役柄を演じられた草なぎさんの、儚(はかな)さにあふれている姿が美しくて。現場に入ると草なぎさんは、常に“凪沙として”その場にいらっしゃる。ちょっとした待ち時間でイスに座っているときも、休憩しているときも。でも、控え室では、そのまま自然体の草なぎ剛さんなんです。そのスイッチの切り替えの見事さも含めて、すべてから目が離せませんでした。

 僕自身は、ずっと役に入っていないと落ち着かないタイプなんです。以前は現場に入っても、共演者の方とあまりコミュニケーションが取れなかった。余裕がなかったんです。でも、いろいろな現場を経験して、それこそ草なぎさんをはじめとした、役との“切り替えスイッチ”を持っている方たちに出会って、次第に変わっていきました。周囲のみなさんと何気ない会話をする機会も増えましたね」

 もうひとり、オンとオフの切り替えがすごい人として挙げたのは、同年代の俳優・矢本悠馬。

「ドラマでご一緒したんですが、“用意スタート!”と声がかかる直前までは、現場のムードを率先して明るくしていたのに、スタートがかかった瞬間に泣きの芝居ができてしまう。“すごいな、自分とは全然違うタイプだな”と大きな刺激を受けました」