──でも残りのカメラは無事でよかったですね。
「そうですね。アフレコのシーンだったので、セリフを言わなくても大丈夫だったんですが、田口さんも迫真の演技で“だ、誰か~!”って叫んでくれたんですよね(笑)。あとの2人は逃げたので2つのフィルムを編集しました。でも『鉄男II〜』のもう1か所でのゲリラ撮影では、スタッフがみんな捕まっちゃったんです」
──それはすさまじい現場ですね。
「ガード下を自転車に乗った田口さんが走るシーンで、(肉体の一部が鋼鉄の銃器と化した)田口さんの胸から銃が発砲される。その弾がバババッてコンクリートの壁に着弾する仕掛けを作っていたんです。もちろん1回だけの撮影で撮ったんですが、そのガードのすぐそばが警察の宿舎だったんですよ……」
──(笑)。それは大事件ですね!
「すげぇ早く警官がやってきたので、“日本の警察はすごく優秀だな”って思ったんですけれど(笑)。運が悪いことに、その日は高架上を要人が通る予定で厳戒態勢だったみたいで。そこで発砲なんてしたので、すぐ捕まりましたよ。『大脱走』っていう映画みたいにみんなバラバラに逃げたのに、警察署に着いたらみんないたんです(笑)。警察の方も映画だとわかると明るい雰囲気でしたね」
──自主映画ならではのエピソードですね。
「『鉄男』のころは、それこそ許可なしで撮っていたんですよ。メイン舞台となった埼玉の工場も、撮影現場で準備していたら間に合わないので、僕は映画の役のサビサビの(鉄の)格好で、電車に乗っていた。あるとき、撮影していたら工場の持ち主に見つかってしまって、壁と屋根のすき間から逃げようとしたところで捕まったんです(笑)。持ち主には“許可を取ればよかったのに”って言われました」
──いわゆる商業映画と呼ばれる映画と、自主映画との違いを教えていただけますか。
「要は大きな会社の映画ではなく、個人の小さな会社で作っている作品ということです。大きな会社が製作するとプロデューサーなど決定権を持つ人が大勢いるのが普通ですが、僕のように有限会社(海獣シアター)を作って自分で資金を集めると、自由に決められる。好きなものを作れる、ということです」
──商業映画には興味がないという感じでしょうか。
「規模が大きな映画も作りたいという夢も高校生のころからあったので、『ヒルコ/妖怪ハンター』の話が来たときはものすごくうれしくて、頑張って作りました。商業映画に対して完全に暖簾を下ろしているわけではなくて、依頼が来るとうれしいんです。原作を読んで検討するのですが、自分がそれを面白くできる遊び道具が見つからないときには、申し訳ないけれど“ごめんなさい”と断っているんです。よほど頑張れる企画でないと迷惑をかけてしまうと思っています」