立ち消えになったタランティーノとの『鉄男』コラボ
──クエンティン・タランティーノ監督が『鉄男』を映像化したいと言っていたそうですが、実際に接点はあったのですか?
「『鉄男II BODY HAMMER』で世界中の映画祭を回ったんですが、そのときタランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』(1992年)も同じように映画祭に出ていたので、どこかの会場で会えるかなって思っていた。実際には会えなかったけれど、タランティーノ監督が『鉄男』の話をしてくれているというのは耳にしていました」
──その当時から、海外での映画化の話は出ていたのでしょうか。
「実は『鉄男II〜』が撮り終わった時点で、アメリカ版の話も進んでいたんです。最初は違うプロデューサーから依頼があって、B級路線だったので逆にリアリティーを感じてハリウッドまで打ち合わせに行きました。そのタイミングで、タランティーノの所属していたエージェント会社にご挨拶に行ったんです。というのも以前に、その会社から入らないかと誘いを受けていて」
──海外の事務所からオファーがあったのですね!
「でもそのありがたさを理解せず、“では考えさせていただきます”って日本的に挨拶したらどうやら向こうが怒っちゃったらしいんです(笑)。それで、事務所には入るつもりはなかったけれど詫びのご挨拶に出かけた。そのときアメリカ版『鉄男』の話をしたら、“絶対にタランティーノが興味を持つよ”って言われたので、最初のB級企画よりもこちらのほうで進めたいって考えたんです。でも打ち合わせをしながらも、自分の英語力や、どれくらいの規模で自分の思ったような映像が撮れるのか見えてこなかった。少しずつ先延ばしにしていったら立ち消えてしまって。結局、自由な作品を作りたいと『東京フィスト』(1995年公開)や『バレット・バレエ』(2000年公開)のような作品に向かっていきます」
──塚本さんの作品は海外でも高く評価されています。黒沢あすかさん主演の『六月の蛇』(2003年公開)は、それまでの作品とは一変して、エロティシズムをモチーフに女性を描いています。ヴェネツィア国際映画祭で賞を受賞されていますが、最初は受け入れられるか不安だったそうですが……。
「自分としては女性に対する敬意を持って作った作品ですが、観た人が、どこまで作品を理解してくれるかわからないですからね。お客さんからブーイングが起こる可能性は十分にありうると思っていた。だから黒沢さんには“バッシングを受けるかもしれない”とあらかじめ謝っていました。そうしたら審査員長が女性の方で、すごく作品を喜んでもらえたんです」