「誰も知らないバンドを見つけたい」という心理

 さて、ロックバンドへとフォーカスを絞っていこう。あらかじめ断っておくが、コロナ禍以前にヒットしていた楽曲も当然ある。

 HOWL BE QUIET「ラブフェチ」やindigo la end「夏夜のマジック」、2019年のTikTok年間楽曲ランキング1位に選ばれた岡崎体育「なにをやってもあかんわ」といった楽曲が該当するだろう。Novelbrightが2019年7月に催した路上ライブツアーがTikTokやTwitterなどで広まり、知名度をグッと上げたことも挙げるべきだろう。

 コロナ禍以前・以後で決定的に違うのは、ライブハウスやフェスに行けない人たち(外に出ることができない人たちともいう)と、そもそもロックバンドに興味がなかった人たちが、TikTokやYouTubeをきっかけにして心を射抜かれたパターンが多いことにある。

indigo la End「夏夜のマジック」
岡崎体育 『なにをやってもあかんわ』

 邦楽ロックバンドには、リスナーの心に語りかけるバンドが非常に多い。むやみやたらに明るくしようともせず、強すぎる卑下をすることもなく、リスナーの声をそのままに歌詞にしたため、現実と向き合うようにまっすぐに歌い上げるバンドが多い。

 しかもここ数年でグッと知名度をあげたのは、汗臭くシャウトするバンドではなく、丁寧かつ柔らかにメロディを紡(つむ)ぎつつ、その言葉をメロディとともに舞いあげてくれるような歌心あるボーカルがいるバンドたちである。

 繊細な恋心を歌うその行為は、聴く側の脆(もろ)く危うい心を手で触るのとほとんど同義となる。特にコロナ禍の社会不安が重なったことで、それまでよりも繊細なタッチとボーカルテクニック、より心地よいボーカルにリスナーの信用が置かれることになった。

 これまで邦楽ロックシーンに見向きもしなかった層に、ライブハウスで地道に活動していたロックバンドや、メジャーデビュー後苦しんでいたバンドが次々と発見されている。といった状況とも見ることができ、「誰も知らないような音楽で心射抜かれる」「誰も知らないバンドを見つけたい」といったファン心理も相まって、ロックバンドが次々と「発見」され、ヒットが続々と生まれているともいえるだろう

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