例えばDISH//「猫」「沈丁花」、Saucy Dog「いつか」「シンデレラボーイ」、マカロニえんぴつ「なんでもないよ、」「恋人ごっこ」などは、コロナ禍以前からバンド活動を開始し、コロナ禍より前(もしくは直前)にリリースされた曲がTikTok・YouTubeで大きくヒットした。その後にリリースした楽曲にもその人気が続いている

 どのバンドのボーカリストもタイプとしては別々だが、間違いなく繊細かつソフトタッチな声を持ち合わせたボーカリストを筆頭にしたバンドである。

 その後、オレンジスパイニクラブ「キンモクセイ」、reGretGirl「ホワイトアウト」、ヤングスキニー「本当はね、」といった楽曲が次々とヒットしていった。

 2023年現在ではヤングスキニー「本当はね、」が、昨年10月のリリース直後からフィンガーダンスやリップシンク動画(※)が注目を集めるなどじわじわと人気が伸び続け、6万5000本もの動画が制作・投稿されている

※リップシング動画:15秒~30秒ほどの音源に、口パクで合わせながら歌ったり踊ったりして撮影した動画のこと。代表的なアプリはTikTok。

 SpotifyやApple Musicでの再生数もグっと伸び、ビルボードジャパンのチャートにも上位にランクインしており、まさにSNSのバズでヒットしたロックソングともいえよう。どの曲もラブソングの体裁であり、その声色やボーカルは優しいタッチなのが共通する点だ。

@yangskinny_official ヤングスキニー「本当はね、」(2022.10.14 SHIBUYA CLUB QUATTRO) #ヤングスキニー #本当はね ♬ Hontowane, - yangskinny
@orangespinycrab.jp やっぱビビッときてるよ 君のイメージ金木犀よ#オレンジスパイニクラブ #キンモクセイ #AutumnVibes ♬ オリジナル楽曲 - オレンジスパイニクラブ

TikTokやYouTubeが作った新たなファン層

 Tani Yuuki、優里、藤井風、川崎鷹也、瑛人といったシンガーソングライターがラブソングでヒットしたこと。「ROCKIN'ON JAPAN」にてここ数年でピックアップされ始めたヨルシカ、ずっと真夜中でいいのに。、YOASOBIといった新たなクリエイターが「生きづらい現代」をテーマにして支持を集めていったこと。そして、DISH// 、Saucy Dog、マカロニえんぴつのようなロックバンドにも日の目が当たったこと。それらは別々のように見えるが、世界全体を揺るがす感染症が与えた社会不安がとても大きく影響している

 '21年・'22年とコロナ禍のなかでも小規模・数少ないライブ公演をこなしていったロックバンドらも、'23年にはライブハウスの収容人数制限や条件付きでの「声出しライブ」が開催できるようになり、徐々に本格的なライブ活動へと戻っていく最中にある

 そこに集うファンたちは、この数年の間で応援するようになった「ライブハウスに来ることが初めて」というファンで溢れかえるだろう。TikTokやYouTubeでのヒットが新たなファンをライブハウスへと連れ出していく、そういったロックバンドが今後はより増えていきそうだ。

(文・草野虹/編集・FM中西)