自分が"その世界の住人"になると、恐怖感は薄れる
──いくつも壮絶な経験をされていますが、なぜ続けられるんでしょう。シンプルに怖くないんでしょうか?
「いや最初はホームレスの方も怖かったですよ。“何じゃお前! 帰れ!”って怒鳴られたりね。話が聞けそうにない日は普通に帰ってましたし、今でも気乗りしない日は取材しませんよ」
──なるほど。恐怖感はだんだんなくなっていくんですか?
「自分もその界隈の方と一緒に生活しちゃえば慣れてくるんですよね。古事記にイザナミが黄泉の国の食べ物を口にして、元に戻れなくなる話がありますけど、だんだん自分の格好とかもボロボロになったりしてね(笑)」
──なるほど。ホームレスの方を理解できないから怖いわけで。彼らの社会や人間性がわかれば、怖くなくなっていくというか。
「そうだと思います。同じ人間ですしね。すると向こうの警戒感も薄くなってきて、話を聞きやすくなってきたりするんです。
西成で新聞やテレビの取材班がホームレスにめちゃめちゃ怒られている光景はよく見てきましたけど、あれはホームレスを理解していないからでしょう。一緒に生活してみると、フレンドリーに話しかけたり、逆に強気で話したり……コミュニケーションの取り方がわかってくるんです」
──おもしろいです。一般的な対人コミュニケーションにも通じるお話だと思います。怖い人や苦手な人ほど、相手の考えを理解することが大切ですよね。
「アンダーグラウンドの社会にいる人はちょっと極端な例ですけどね。でも結局は同じ人間ですから。一般的な生活でも“相手のポリシー”とか“属している社会のルール”を理解することで、苦手・怖いという感覚は薄れると思います」
──なるほど。ただいわゆる裏社会のルールは難解ですし危険も伴います。辞めようと思ったことはないんですか?
「ないですね。逆に“ずっと仕事をやり続けたい”と思いながら生きてきました。
僕はすごく自由な環境にいるんですよ。企業に属していませんし、結婚もしていませんしね。取材の交通費・宿泊費も全部自腹です。だからやりたいように仕事ができるし“ネタが見つかった”という楽しさがあるから退屈もしません。
今でも出張のときは普通のホテルには絶対泊まらない。おもしろいことが起きそうなので、現地でいちばん安い宿を探して宿泊しますね」
──その「好奇心の強さ」にこそ、村田さんがルポライターとして仕事を続ける理由があるように思いました。
「どうでしょうね。僕自身は“裏社会を見たい”ではなく“仕事を続けたい”という感覚のほうが強いです。
だから制作のコストパフォーマンスも考えていますよ。例えば青木ヶ原樹海だって交通費が安いわりに多くの方の興味を引けるじゃないですか。スラム街の潜入先に韓国を選んだのも、渡航費が安く、日本人となじみ深い国だからです。
例えば僕の知り合いに丸山ゴンザレスさんという方がいるんですが、彼はブラジルのスラム街とか、たくさんのお金を使って遠方まで行きます。“すごいなぁ、僕もどこかでやらないとなぁ”と思いつつ、コスパを考えちゃいますからね」
──私たち一般人からすれば、命をかけているだけでおふたりともすごいですけどね(笑)。
「いやいや。今は漫画家としてもライターとしてもたくさんお仕事がありますが、自分ひとりで生きていく方法も考えてます。Kindleで自費出版したり、自分でWebメディアを立ち上げたりね。これからもネタを探しながら、この仕事を続けていきたいです」
(取材・文/ジュウ・ショ、編集/FM中西)
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最新著作『禁忌(タブー)への潜入で見た残酷な現実』(BAMBOO ESSAY SELECTION)→https://www.amazon.co.jp/dp/4801934862?ref_=cm_sw_r_apin_dp_A0JW4BTSEKZF9GF0DE14