理想の上司のような松坂慶子のたたずまい
そして『らんまん』にはもう1人、「昔だと、カッコよさを存分に発揮できる」人がいた。万太郎の祖母・タキ役の松坂慶子さんだ。江戸の末期、由緒ある造り酒屋・峰屋を率いる大奥様という役どころ。夫も息子も亡くし、息子の妻=万太郎の母(広末涼子)は病で床についている。必ず万太郎を大きくし、峰屋を継がせる。その思いがタキを強くしている──ということが、松坂さんのたたずまいから伝わってくる。
実質的な当主を務めていられるのは並々ならぬ力があってこそだが、それでもナメられる。分家にあたる親戚が万太郎の陰口を言う。「ただでさえ、酒蔵仕切っているのが、ばあさま」だと付け足す。タキがこう言う。「分家の分際で何を言うた。もう一度、言ってみ」。親戚の言い訳に「はっきり言うちょく。おまんらがいくら束になろうが、万太郎1人にはかなわん」。
身分制度が前提とはいえ、上に立つ者のあり方を示してくれる。番頭の息子である竹雄(井上涼太)に、家の仕事はせず万太郎のことだけを気にかけよと命じた。まずは「お前は働き者で、将来はいい番頭になるだろう」と褒め、それから「万太郎だけを見よ」と言い、最後は「万太郎が黙って出ていく。そんなことが次あったら、おまんの落ち度じゃき」と締める。果たすべき役割、責任の所在をはっきりさせている。説明なくして信頼なし。できる管理職の姿だった。