ディーン・フジオカと松坂慶子のハンサムぶりと堂々ぶり
松坂さんは朝ドラに出ると、いつも素敵だ。若き日の水木しげるとその妻を描いた『ゲゲゲの女房』(2010年度前期)が初出演。戦争から帰ってきてから、いろいろあってすっかり働かなくなった夫に代わり、貸本屋を営んでいた。優しさにあふれているが、その奥にある悲しさも伝わってきた。『まんぷく』(2018年度後期)は「わたしは武士の娘です」が口癖という、ヒロイン(安藤サクラ)の母親役だった。甘えているようでいてたくましく、空気を読まないようでいて、実は巧みに絶妙なタイミングで本音を言う。そんな女性だった。
松坂さんという役者の演技の幅は、「可愛い」と「堂々としている」の間にあると思っている。勝手な観察だが、「今」を描くドラマの松坂さんは「可愛い」寄りになる気がする。「今」ゆえに、悩めるシニアといった役が多くなり、松坂さんの可愛さで深刻さを回避しているのではないかと思う。
その点、朝ドラの松坂さんは「昔」にいる。『らんまん』は目下、江戸時代だし、『ゲゲゲの女房』も『まんぷく』も主に「戦後」を描いた。すると松坂さんの「堂々と」成分が上がる。「堂々と」寄りを経て、『らんまん』は100%「堂々と」になった。「今」よりも直球勝負で生きた時代だったし、「昔」なら距離をとって見られるから「可愛い」成分を足して当たりをやわらかくする必要がない。そんなこんなで、松坂さんがカッコいい。
おディーン様のハンサムぶり、松坂さんの堂々ぶりは「今」より「昔」。何となくわかっていただけただろうか。
《執筆者プロフィール》
矢部万紀子(やべ・まきこ)/コラムニスト。1961年、三重県生まれ。1983年、朝日新聞社入社。アエラ編集長代理、書籍部長などを務め、2011年退社。シニア女性誌「ハルメク」編集長を経て2017年よりフリー。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』など。