ぐちゃぐちゃしている「みのり」に共感
NHK総合で再放送中の朝ドラ『ひらり』(脚本・内館牧子)。石田ひかり演じる相撲が大好きな女の子・ひらりとその家族、相撲部屋の力士たち、東京の下町の人々などの人間模様を描いて大人気ドラマとなった。
鍵本さんが演じた姉・みのりは、丸の内にある大手商社に勤めるOL。驚かされるのは、今ではすっかり様変わりした「結婚適齢期」を迎えた女性の姿だ。
「上司に “みのりちゃん、結婚まだ?” ってみんなの前で聞かれたり。今だったら考えられないし人権問題ですよね(笑)。
25歳まで誰とも付き合ったことがないって設定ですけど、素直で明るくてみんなに好かれる妹と自分を比べて常にコンプレックスを感じていて、会社勤めしていても腰かけ気分で “早く身を固めたい” とか、最初っから焦りまくっているんですよね」
みのりは両国診療所に赴任してきた青年医師・竜太(渡辺いっけい)にひと目惚れして「結婚」を夢見るようになるが、なかなか素直に恋心を伝えられない。一方、ひらりと竜太はお互いに言いたいことを言い合いながら、ケンカ友達のような気のおけない間柄に。ドラマ前半は、みのりにとってもどかしい展開が続く──。
「みのりってどんなに真剣にしていても、どこかコメディーですよね。すぐに転ぶし(笑)。
ひらりと暮らす2階の部屋はロールカーテンで仕切られているんですけど、“もうあんたなんか嫌い!” ってピュッて締めちゃったり(笑)。
よく覚えているのは、ひかりちゃんと2人だけのワンシーンで15分を演じる回(※)があって、撮影するのに5時間ぐらいかかりました」
※第61回。オープニングの出演者クレジットに、石田ひかり、鍵本景子の2名だけが表示される画期的な回だった。
「竜太への恋心をずっと隠していたみのりがとうとう爆発して、ひらりと言い合いになるんです。
“お姉ちゃん、なんでそんな大事なこと言ってくれなかったの” “そんなこと言える? 最初、ひらりは竜太先生のこと好きじゃないって。あんなやつ! とか言ってたでしょ。そんなこと聞いてたら、私、言えるわけないじゃない”って。
テンションを上げる芝居が続いて、疲れて笑いが止まらなくなっちゃったりして、NGも出るし大変。撮り終わったときは夜中になっていました」
──放送当時「みのり現象」って言葉があったじゃないですか。社交的で要領のいい妹とは対照的に、自己肯定感が低くてチャンスを逃し続ける姉……。視聴者の間では、みのりに共感を寄せる声も多かった。それは耳に入ってきましたよね?
「そうですね、雑誌の特集でも “あなたはひらり派? みのり派?” みたいな組み方をしてもらったり。やっぱり、ひらりちゃんみたいな女性はなかなか現実には存在しづらい。明るくて素直だしとっても思いやりがある。お姉ちゃんがあんなにひねくれてるのに、“おかしいよ、お姉ちゃん” みたいな感じで、お姉ちゃんのことも思いやれる。
でも、みのりは本当にぐちゃぐちゃしていて(笑)。現実にはあそこまであからさまにぐちゃぐちゃな人は少ないでしょうけれど、誰しも心の中は揺れっぱなしでみっともない部分を抱えている。それがリアルだったのかもしれません。
と同時に、イライラするとか、みのりは好きじゃないという人もいました」
演じていた当時、鍵本さんはまだ22歳。
「役では25歳という設定でしたが、実際には20歳のひかりちゃんと2歳しか違わない。みのりの衣装はすごい肩パッドなんですよ(笑)。まず自分では着ないような服なんですけど、衣装で姉妹を差別化する意味もあったんでしょうね」
──みのり役と自分自身のギャップに苦労することはありましたか?
「私自身は小さいころから自由にやりたいことをやってきたほうなので、やっぱりそこは違います。だから8か月撮影期間があったんですけど、みのりちゃんのモチベーション、コンプレックスを保つのがだんだん難しくなってきました。
小手先だけの表現にはしたくなかったので、強引にこじつけていくんですね。自分の中でいろんなものを役に反映させ、ひかりちゃんと景子を比べるみたいに……。石田ひかりは『光』、鍵本景子の景は『影』で、光と影なんだと思ってみたりとか(笑)。なんとかねじ込めて、マイナス思考に持っていこうとしましたね」