声の仕事は『魔女の宅急便』から
プライベートでは2000年、知人の紹介で知り合った一級建築士の男性と31歳で結婚。36歳で出産した長女は、今春高校を卒業し大学に進学した。
「ずっと担当してくれたマネージャーが “結婚したら家庭を大事にしなさい”っていう考えで、2〜3日で撮影が終わるようなお仕事が中心になりました。
それとは別に、20代の後半から朗読など声のお仕事もしています。役者ってどちらかというと受け身で、いつどんなお話が来るかわからない。自分でコンスタントに練習して何かを表現したいっていう思いがあったんですね。白石加代子さんの『百物語』を拝見して素敵だなぁって。自分もいつかそんなことできるようになりたいなと思ったんです」
2009年からスタートさせ、現在もっとも力を入れているのが、宮沢賢治の作品を屋外で上演する “幻燈会(画+音楽+朗読)”。
『どんぐりと山猫』『セロ弾きのゴーシュ』『注文の多い料理店』など演目は毎回異なり、イラストレーター&デザイナーの小林敏也さんの絵をスクリーンに投影。鍵本さんが朗読を担当し、さらに音楽(篠笛・能管の植松葉子さん、パーカッションの入野智江さん)が加わる編成だ。東京・小平市の市民グループ「どんぐりの会」
「公園の林の中などに4メートル×5メートルの白い防炎シートを張ってもらってスクリーンにしています。土の上でできて、ときどき風が吹いたりしてとっても気持ちがいいんですよ。
この4月1日には 国分寺市のグループに呼ばれて、“てのわ桜見幻燈会”と題して、史跡武蔵国分寺跡で宮沢賢治の『雪わたり』を上演しました。『ひらり』を見たという方も来てくれました」
招きに応じて全国各地に「出張」もしており、図書館などの屋内で行う場合もあるという。
さらにコロナ禍を経て、紙芝居『おきなわ 島のこえ』の上演も始めた。
「もともとは丸木俊、丸木位里ご夫妻が描かれた絵本(小峰書店刊)なのですが、ぜひ紙芝居としてもお伝えしたくて、出版社から著作権者の方を紹介していただきました。
原画のデータを知人の写真家の方にお願いしてA2サイズの印画紙にプリントしていただいて、自分でその裏にケント紙を貼ったり額縁を作ったり。小さなカフェで私ひとりでやらせてもらっています」
ちなみに鍵本さんが初めて声の仕事をしたのは、アニメ映画の『魔女の宅急便』(1989年)。主人公のキキが魔法のほうきに乗って配達した先の女の子の声を担当した。
「ニシンのパイの女の子って、ちょっと感じが悪い役です(笑)。素敵なおばあさまが孫のお誕生日パーティーのためにニシンのパイを焼くんですよ。嵐の中やっと届けに行ったのに、玄関先で受け取った女の子は “またおばあちゃんからパイが来た” ってお母さんに言って、“私、このパイ嫌いなのよね” って」
「アテレコはガラス(録音ブース)の中でやりますよね。演出家は女性の方だったんですけど、総監督の宮崎駿さんが外にいてマネージャーが話を聞いていて、“あの子は『ゲゲゲの鬼太郎』に出てきそうな声だね” って言われてたぞって(笑)」
──わかります(笑)。童話を朗読するときにはそういう雰囲気が必要ですよね。さまざまな人物の声を1つの物語の中でやったりするわけで……。
「それが楽しいんです。普通のドラマだったら、女性の役しかできないじゃないですか。でも、宮沢賢治の例えば『どんぐりと山猫』だったら、山猫だったり一郎くんだったり馬車別当だったり。男の子にも女の子にも動物にもなれるし、おっさんの役もできる。
私のおじさん役を好きだよって言ってくれる人もいるんですよ(笑)。これからいろんな場所で“声” をお聞かせできると嬉しいです」
(取材・文/川合文哉)
《INFORMATION》
第24回月夜の幻燈会 宮澤賢治 作『黄いろのトマト』
2023年6月3日(土) 19:30〜20:00(雨天順延6月4日)
場所/小平中央公園雑木林
出演/小林敏也&おほんゴギーノ(植松葉子・入野智江・かぎもと景子)
主催・問い合わせ先/どんぐりの会 https://dongurinokai.net
《PROFILE》
かぎもと景子(かぎもと・けいこ) 1969年1月7日生まれ。小学6年生で劇団若草に入団し、1982年『非行主婦・アル中の女』でドラマ初出演。NHK連続テレビ小説には『おしん』『凛々と』『ひらり』『さくら』『芋たこなんきん』の5作品に出演。近年は「声」の仕事に積極的にかかわり、幻燈会、紙芝居などの公演を行なっている。
2023年5月より「鍵本」から「かぎもと」に改名。