自分のことをネガティブに語る綾
集会場に綾がいて、万太郎もいる。演説をする濃いめの弁士(宮野真守)の「役立たずの雑草」という一言をきっかけに、万太郎が演説をすることになる。見守る綾と竹雄(志尊淳)──って、『らんまん』、詰めが甘いと思う。
何度も書いているが、男性の、しかも金持ちお坊ちゃんが主人公なのだ。共感ポイントが見えない女性視聴者のために、綾がいるのだ。それなのに、自由民権運動って。と小さく憤る私なのではあるが、気を取り直して竹雄の話をする。「綾が心情を語る相手」として、存在感を増してきた。これから2人の恋愛が描かれるだろうと思いつつ、「幸吉退場」で予想を外した身なのでその話は置いておく。
19話、綾は竹雄に幸吉を訪ねたと明かす。農作業の真っ最中で、可愛いお嫁さんもいた、と。そして「幸吉のことらあ、何も知らんまま、自分が酒を造りたいばっかりに、なんて、強欲ながじゃろう」と言う。
強欲だなんて。現代では、カルロス・ゴーンさんあたりに使われる言葉だ。目の前にある好きなことを仕事にしたいと望んでいる。それだけなのに。しかも綾が自分をネガティブワードで語るのは、初めでではないのだ。12話でお見合いに失敗し、タキに「恥をかかされた」と叱られた。そのことを、竹雄に語ったときもそうだった。いわく、お膳に酒が出て、飲んでしまった。峰屋の酒が博覧会に出品されることが決まっていて、そちらが気になり「見合いどころじゃない」と言ってしまった。自分が機嫌よく片づけば、みんなが幸せなことはわかっている。なのに、「自分のことばかり。醜いよ」、と。綾の言葉が、悲しく響く。