『半分、青い。』でもヒロインに寄り添った志尊淳

 話は変わるが、志尊さんは朝ドラ2度目の出演だ。『半分、青い。』(2018年度前期)で、ゲイの青年「ボクテ」を演じていた。ヒロインは、片耳が聞こえない鈴愛(永野芽郁)。2人とも著名な漫画家のアシスタント。初対面の日、ボクテは自分から、「ほら、僕ってゲイじゃない」と名乗る。「僕って」だからボクテ。その日、鈴愛は故郷の母に電話をする。ここは耳が聞こえないことがハンディじゃない、物語でしか知らなかったゲイもいる、描くことがすべてなのだ、と。ヒロインの世界が大きく広がる、その瞬間が描かれた。ボクテは優しく才能と野心があり、問題を起こし破門される。最終回まで、鈴愛の親友だった。

映画『おっさんずラブ』初日舞台挨拶に登壇した志尊淳 撮影/吉岡竜紀

 『半分、青い。』は、北川悦吏子さんの作品だ。『愛していると言ってくれ』など大ヒットドラマを書いてきた脚本家が、朝ドラを通じて書きたかったことが端的に表れていたのが週タイトルで、すべて「〜したい!」で統一されていた。鈴愛がボクテと出会った週は「叫びたい!」、ボクテが破門された週は「デビューしたい!」、最終週は「幸せになりたい!」だった。「〜したい!」つまり「欲望」は美点、カッコ悪くても、ずるくても、それが人生だよ。北川さんは、「!」でそう訴えていた

 それから5年。ボクテ、否、竹雄は「欲望」どころか「気持ち」も抑えに抑える役どころだ。「綾さまの欲は、前に向かうための力じゃ」と言ったのに、「お慕いしている」と言いかけて、「尊敬している」と修正する。そんなことだから、って別に竹雄のせいではないが、綾は4週の最後、「おばあちゃんの言うとおりにする」と竹雄に告げる。竹雄は、あなたが誰と結婚しても忠義は変わらない、「一生、お守りすると誓います」と返す。綾と竹雄、どちらもいろんなものを抑えすぎだ。

 さて、このまま万太郎と綾は結婚するのだろうか。「阻止したい!」。私の中の北川悦吏子さんが叫んでいる。


《執筆者プロフィール》
矢部万紀子(やべ・まきこ)/コラムニスト。1961年、三重県生まれ。1983年、朝日新聞社入社。アエラ編集長代理、書籍部長などを務め、2011年退社。シニア女性誌「ハルメク」編集長を経て2017年よりフリー。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』など。