“ベテラン”神木隆之介はさすがの演技を
万太郎が声を荒げるところも描かれた。金が先か、標本が返すのが先かというやりとりで、「見くびるな!」と男を一喝した。「今さら(金を)渋ると思うか。おまんが燃そうとしゆうがは、わしの命そのものじゃ」。抑えた声で、そう続けた。
男が標本を返すと、「優しさ」を見せる展開になった。男の妻(成海璃子)が現れ、部屋からは熱を出した息子の泣き声がする。自分の小さいころと重ねた万太郎が「医者代は出す」「熱冷ましもある」と言って、部屋に上がる。「熱いのー、しんどいのー」「心配ないき」と声をかける。医者が到着すると「ケン坊、えらいのう、大丈夫じゃ、もう大丈夫じゃ」。育ちのよさが、損得抜きの優しい人柄になっているとわかる。
神木さん、さすが芸歴28年の30歳だ。「えへへ」と笑う子犬をベースにしながら、いざとなったらならず者風の男にも立ち向かい、そこから一転、優しさを出しまくる。なるほど万太郎役に、選ばれるはずだ。
と、神木さんをほめたところで、ここからは万太郎への苦言だ。とにかく、金銭感覚がなってなさすぎる。引っ越し中に牛鍋を食べるのは、まだよしとしよう。だが、標本を人質にとられたからといって、犯人の言い値の3倍以上も出すのはどういうことか。ここまで書かなかったが、男の要求金額は「30」だった。それを万太郎は「わかった、100払おう」と言ったのだ。
「30」「100」と言うばかりで、単位を言わないのは生々しさ軽減のためだろうか。でも、ここははっきりさせよう。「30」と聞いたとき、竹雄は「法外な」という顔をしていたから、「30銭」ではなく「30円」と察せられる。すべて片づいた後、男の家で帛紗(ふくさ)に包んで渡したのは100円だとして、今の金額に直すならいくらだろう。調べたところ、何を基準にするかにもよるが「1円=2万円」という計算もできるそうだ。200万円を即金で渡す万太郎は、いったいいくら持って上京してきたのだろう。