万太郎のモデル・牧野富太郎の実家が傾いた史実

 竹雄が万太郎を諭した。当然だ。湯水のごとく金のある家に育ったが、こんなことはこれを最後にしてください。そういう竹雄に、万太郎も「はい」と神妙に答える。竹雄はそこで、「峰屋は若の財布じゃない」と言う。促す調子だから、万太郎も「峰屋は若の財布じゃない」と続けた。再び竹雄が「峰屋は……」と発声、万太郎が続き、結局4度。

『らんまん』で竹雄を演じる志尊淳 撮影/佐藤靖彦

 ほのぼのとした2人のシーン。仲がよくて、よかったねー。とは、まったく思わなかった。ばかもーーん。脳内で磯野波平がカツオ、じゃなかった、万太郎を怒鳴っていた。だって万太郎が言うなら、「峰屋はわしの財布じゃない」だろう。それなのに「若」のまま。おうむ返しなら、タラちゃんだってできるぞ。

 と、1人で憤っているのには訳がある。万太郎のモデルとなった牧野富太郎の人生を知っているのだ。NHKのホームページには《『らんまん』は高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルとしたオリジナルストーリー》とある。万太郎は富太郎にあらずという主張だが、富太郎関連番組も連発している。彼の人生もわかるし、知りたくなるから調べるのが人情だろう。例えば練馬区立牧野記念庭園のホームページにはこうある。

《研究のため出費がかさみ、博士の実家の経営は傾きます》

『らんまん』主人公のモデルとなった植物学者・牧野富太郎 写真提供/高知県立牧野植物園

 『らんまん』でいうなら、峰屋は万太郎のせいで倒産の憂き目に遭う。そうわかっているから、万太郎の金銭感覚にイライラする。しっかりしてくれないと、綾(佐久間由衣)が酒造りを続けられなくなるのだ。それなのに、それなのに、万太郎は30話、和菓子屋で商品をすべて買い占めていた。引っ越し祝いだそうだ。ばかもーん!


《執筆者プロフィール》
矢部万紀子(やべ・まきこ)/コラムニスト。1961年、三重県生まれ。1983年、朝日新聞社入社。アエラ編集長代理、書籍部長などを務め、2011年退社。シニア女性誌「ハルメク」編集長を経て2017年よりフリー。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』など。