「この作品は純喜劇。ちゃんと笑ってもらいたい」

――依子が入信している新興宗教の勉強会のシーンで、みんなで変な踊りをするところが妙に頭に残っています。

 あのシーンはもうおかしくてね、台本を読んだとき、大笑いしたんですよ。僕はこの作品を「純喜劇」として見ていただきたいんです。実は最初にこの作品の脚本を読んだとき「これこそ純喜劇だ」と思ったんです。僕が謎の踊りをうまくできなくて、その様子をスタッフと大笑いしながら撮っていたので、演じていても面白かったし、あのシーンは大好きですね。

――私も「ここは笑ったら失礼かな」と思いつつ、笑ってしまいました。

 いいんですよ。ちゃんと笑ってほしいんです。だって、どう考えたっておかしいですもん。もちろん、その会の中にいる人たちは真剣にやっていることですけど、傍から見たら滑稽ですから。

荻上さんの心の中にある社会に対しての「牙」を出してきた作品

――荻上(直子)監督はかなりの熱い思いを持って今作の脚本を書き、撮影に臨まれたと伺いました。光石さんから見て、これまでとは違う熱量みたいなものは感じましたか?

 どの現場でも熱量は変わらないですが、監督とはもう何作もご一緒させていただいているので、荻上さんの心の中にある社会や人間に対しての「牙」というか「刃物」みたいな思いは僕も以前から知っていました。

 ものすごく物腰が柔らかくて、現場でもやりやすくやってくれるけど、あれでいてわりと熱い人ですから。結構な毒を吐くときもあることを知っていたので、この作品の話を聞いたときは「やっぱり来たか」と思ったし、「さすがだな」とも思いました。

 今回は筒井さんと心中するような感じでずっと作っていましたよ。荻上さんはいわゆる「俳優ファースト」というか、演者に寄り添ってくださる監督なので、今回も筒井さんだけじゃなく、息子の婚約者を演じた津田(絵理奈)さんにもずっと寄り添っていました。

光石研さん 撮影/松嶋愛

――今作は、介護や新興宗教、障がい者への差別など、今の社会にあるさまざまな問題を扱っていて、それらをオブラートに包むことなく提示した作品だったと思うのですが、光石さんがこういった社会的な問題やテーマを扱う作品に出演されるときに、演者として心がけていることはありますか。

 宗教の問題や格差、差別みたいな社会問題はともかく、この作品は東日本大震災を起点にしているんです。「あの震災のことを忘れない、ちゃんと記憶に留めておこう」というような始まり方ですから、僕らがこういう作品に出させてもらうことによって、ある種のメッセージのようなものが伝えられるんじゃないかということは、どこかで意識していましたね。

――過去に起こった出来事を作品にして世の中に出すことによって「風化させない」「忘れない」という思いがあるのですね。

 僕ら役者は脚本を書いたわけでもないし、特に何かをしたわけではないんですけど、そこに参加させてもらっていることで、微力ながら少しでもそのメッセージ性みたいなものを届ける後押しができるんじゃないかなと思っています。

◇  ◇  ◇

 後編では、デビュー当時や出演したドラマの思い出、地元・福岡のおすすめグルメ、最近ハマっていることなど、気になる光石さんの素顔やプライベートに迫ってみたいと思います! 

(取材・文/根津香菜子、編集/福アニー、撮影/松嶋愛、ヘアメイク/山田久美子、スタイリスト/下山さつき(クジラ))

【Profile】
●光石研(みついし・けん)
1961年9月26日生まれ、福岡県出身。高等学校在学中、映画『博多っ子純情』(78年)で主演に抜擢されデビュー。イギリス・フランス・オランダで合作製作された『ピーター・グリーナウェイの枕草子』や、第49回ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞した『シン・レッド・ライン』『それでもボクはやってない』など200本以上の映画や、TV、舞台など多方面で活躍。待機作に、12年ぶりの映画単独主演作『逃げきれた夢』(6月9日公開予定)がある。

【Information】
●映画『波紋』
監督・脚本:荻上直子
出演:筒井真理子、光石研、磯村勇斗、津田絵理奈、安藤玉恵、江口のりこ、平岩紙、柄本明、木野花、キムラ緑子
公開日:2023年5月26日(金)

映画公式サイト:https://hamon-movie.com/