身分格差の現状を万太郎に教えた佑一郎
だが万太郎は、「植物愛」ゆえに第三の道を選ぶ。そう理解するのが素直な見方。そうわかりつつ私には、「子どもパワー」ゆえに見える。「いやだったら、いやぁー」「自分でやりたいのおー」。万太郎の主張はこれなのだ。幼い子どもが口をとがらせて言うのと、そう変わらない。
普通は成長するにつれそういう主張(わがままとも言う)も弱まるが、万太郎は結婚してもキープしている。だから万太郎は、一流の学者になった。わかっているが、どうも温かく見守れない。もう少し大人になれないかなー。神木さんの童顔に、ついイラッとしてしまう。
というような視聴者がいることを、脚本家の長田育恵さんもわかっていると思う。だから『らんまん』には、真っ当な大人が登場する。そして、大人にふさわしい真っ当なことを語る。それが長田流だ。こういう人でありたい、こういう世の中でありたい。長田さんの思いを託されている大人たちだ。
14週では、万太郎の幼なじみ・佑一郎(中村蒼)がそうだった。佐川の名教館で万太郎と学び、札幌農学校を経て現在は工部省勤務。アメリカに留学する前に、シャケを持って万太郎の住む長屋を訪ねてきた。万太郎が「佑一郎君は子どものころからビシーッとしちょった」と寿恵子(浜辺美波)に言うと、「うちは武家で没落しましたきね。あとがなかった」と佑一郎。そこが万太郎と違うのだ。田邊の「虫ケラ」発言を聞くと、鉄道建設工事の話をした。
設計するのは一握りの学校出だが、実際に働いているのは安い前金で集められ、家族に金を送ろうとする人たちだった。北海道は特に苛烈で、身体を傷め、逃げようとしてムチで打たれる人もいた。そんな人たちを前に自分たち若造が「先生」と呼ばれて、怖くてたまらなかった。そして、この人たちに恥じない仕事をしなくてはと思っていた。そんな話をし、「その教授を普請場に放り込んでやりたいのう」と言った。歴然たる身分格差、搾取の構図。それを「怖い」と感じる。長田さんは万太郎の周辺に真っ当な人を置き、要所要所で長台詞を言わせる。