長田郁恵さんの脚本に自分の仕事人生が重なる

 13週では祖母・タキ(松坂慶子)だった。祝言の席で万太郎が、姉・綾(佐久間由衣)と竹雄(志尊淳)に峰屋を譲ると宣言した。分家の男3人が「綾は本家の人間じゃない」と騒ぎだす。そこからがタキの長台詞。「家ゆうがは何じゃろうのう」と語り始める。自分は何を守ってきたのだろう、家よりも「今ここにいるおまんらの幸せが、肝心ながじゃ」。そう言うと、分家を見下してきたのは誰だと問われる。「ほうじゃのう、わしがそうしてきた」。そしてこう言った。「けんどのう、時は変わった」。

『らんまん』で万太郎の祖母・タキを演じる松坂慶子 撮影/高梨俊浩

 死が近づいていることを悟り、自分の流儀が時代と合わなくなっていることに気づいたからこそ、「この先は、本家と分家、上下(うえした)の別なく、商いに励んでほしい」と頭を下げた。自分と世の中を見つめる。間違いは認め、思いは素直に語る。朝ドラが描いてきた、真っ当な女性の系譜にタキはぴったりはまっていた。

 再び佑一郎だが、万太郎の打開策として、博物館を訪ねよとアドバイスした。「訪ねていく先があるゆうことも、自分の宝じゃき」と。自分の仕事人生と重ねて、うんうんとうなずく。そういうところも、長田さんは上手だ。「リオデジャネイロ号の3等船室で行くき」と佑一郎。万太郎は明るく「無事帰ってきたら、今度は牛鍋じゃ」と返す。やっぱり万太郎、能天気すぎる。


《執筆者プロフィール》
矢部万紀子(やべ・まきこ)/コラムニスト。1961年、三重県生まれ。1983年、朝日新聞社入社。アエラ編集長代理、書籍部長などを務め、2011年退社。シニア女性誌「ハルメク」編集長を経て2017年よりフリー。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』など。