長いキャリアの中で、重厚な役から熱血漢、また、コミカルなキャラクターまでさまざまな役を演じてきた俳優・唐沢寿明さん。インタビュー前編では久々の社会派ドラマで演じる役や見どころはもちろん、昨今の日本のドラマ業界への思いなどをお聞きしました。
後編では俳優としての活動をスタートしてから40年以上、常に走り続けてきた唐沢さんに「爽やかな好青年」や「トレンディ俳優」といったパブリックイメージを払拭するために挑戦した作品の思い出や、今年還暦を迎える心境、俳優として、また一人の人間として大切にしていることについて語ってもらいました。
イメージを脱却するのは大変なこと
――唐沢さんの役者歴は40年以上。10代のころは「スーツアクター」として活動されていたこともあるそうですが、これまでのご自身の役者人生を今改めて振り返ってみていかがですか?
スーツアクターといっても、真冬に全身タイツみたいな格好をして、大勢の中の一人という感じだったし、当時はその仕事に一生懸命だったから。そこで仲間意識が生まれたりいろんな勉強になったりして、その経験が今の自分に生きていると思っています。
まさかそのときは自分が主演をやる人間になるとは夢にも思っていなかった。だから、人生ってわからないものだなと思います。
――いろいろな経験や下積みが、徐々に唐沢さんを役者にしていったのですね。
俳優仲間でも「顔つきが変わったな」と思うことはあります。例えば、今回『連続ドラマW フィクサー』で共演している藤木(直人)くんとは何回も一緒に仕事をしているけど、今までとは顔つきが違うんです。
僕はプライベートの藤木くんのことも知っているけど、今回の彼はすごいよ。「俳優っていうのはこういうことだな」って、作品を見てもらえばわかると思います。
――では、唐沢さんが世間からのイメージを脱却した、顔つきが変わったなとご自身で感じられた作品はありましたか?
30代のころは「トレンディ俳優」と言われて騒がれたけど、それって今でいう「アイドル俳優」とか「イケメン枠」みたいなものじゃない。それ以上でもそれ以下でもないんだよね。もちろん当時は精いっぱいやったつもりだけど、そのイメージを脱却するというのは実は大変なことなんだよね。
そんなときに、それまでとはまったくイメージの違う作品をやったら「イメージが違った」とか「もうファンをやめます」という電話や手紙が事務所に来て、世間から絶望されたんです(笑)。でも、僕がそのとき思ったのは「人気がある今の時期に冒険して、チャレンジしたほうがいいな」ということ。「もし今が一番人気のあるときなら、いろんな幅を見せられる」という計算が自分の中にあったし、別にそれで失敗したとしてもやった意味は必ずあるし、いつか自分に返ってくるから。
ほかにターニングポイントがあるとすれば、『白い巨塔』でもずいぶん変わったと思う。振り返ってみると、要所要所で必ず誰かに助けてもらっているなと思います。
――これまで唐沢さんが演じられた作品の中でも、私が特に印象に残っている一作が『美味しんぼ』の山岡士郎です。原作漫画のキャラクターとあまりにも似ていて、子どもながらに衝撃を受けました!
あの作品を覚えているなんて珍しいね(笑)。あのときは原作者の方に「漫画のキャラクターそっくりにやってほしい」と言われて、自分なりに考えてみたんだよ。でも、もともと自分自身が漫画みたいな顔しているんじゃない? 『トイ・ストーリー』でウッディをやったときも「似ている」って言われることが多かったけど、作品ができる前にこの顔で生まれているからね(笑)。
――キャラクターとしてすでにあるものに声や演技をつけることは、面白くもあり難しくもあるのでしょうか。
やっぱり難しい。だから『トイ・ストーリー』以降、声優の仕事をやっていないんです。声優さんの仕事を取ってしまうような気もするし、なんでもかんでも前に出てやらなくても、自分は俳優の仕事をしていればいいかなって思った。要はバランスかな。
「トレンディ」でい続けるためには……
――唐沢さんが1996年に上梓されたエッセイ『ふたり』を子どものころに初めて拝読し、今もたまに読み返しています。本書でも触れていますが、唐沢さんはブルース・リーに憧れて役者を志したそうですね。
世の中の大半の人は、ブルース・リーというとヌンチャクを回して「アチョー!」と言っていることしかイメージがわかないと思うけど、自分が彼から影響されたのはそんなことではないんです。俳優として本当に勉強になったし、人としてとても大事なことを学びました。
――同書のあとがきで、「『トレンディ』イコール『その時代』だというなら、おれはずっと『トレンディ』でいたい」という名言(!)が胸に刺さりました。唐沢さんが「トレンディ」でい続けるために心がけていることがあれば教えてください。
やっぱり、その時代をちゃんと理解して生きていくってことじゃないかな。職業のジャンルは別にして、それができない人はどうしても取り残されていってしまう。「こんな時代になっちゃったのか」と思うかもしれないけど、その仕事をやり続けようと思ったら、その中で「どうしたら今の時代に生き残っていけるのか」を考えるようになるじゃない? 今の自分たちが生きている時代をちゃんと見て考えていないと、一般社会に取り残されていくからね。
すてきな奥さんと二人で楽しく生きていきたい
――ここからは、俳優さんたちの「実はこんなものが好きです」といったことやものを語っていただくコーナーに移りたいと思います。唐沢さんが今熱くなっていることは何かありますか?
自分がそこまで熱い人間じゃないから、本当に熱いヤツって苦手なんだよ。でも、タクシーのモニターでよく見る「熱い男」 のCMは面白いね。「気合いで!」とか「徹夜で!」って言っていて「それは時代錯誤だろう」と思うんだけど、あれはキャラクターが面白いんだよね。もちろん僕も仕事は一生懸命やるけど、とにかく楽しむことが一番だよ。
――今年の6月で還暦を迎えられます。俳優として、また一人の男性としてこれからどんな人生を歩んでいきたいですか?
俳優としては、夢と希望があるような作品があればいつでも出たいと思う。でも、もしそうじゃない社会になったら、うちはすてきな奥さんがいるから。二人で「どうやって生きようか」って考えながら、楽しく生きていくんじゃないかな。それも人として大事なこと。俳優は演技だけじゃなく、プライベートを楽しむこともとても大切なことだからね。
(取材・文/根津香菜子、編集/福アニー、撮影/junko、ヘアメイク/松原美穂(Nestation)、スタイリング/勝見宜人(Koa Hole inc.))
【Profile】
●唐沢寿明(からさわ・としあき)
1963年6月3日生まれ、東京都出身。’87年、舞台『ボーイズレビュー・ステイゴールド』で本格的に俳優デビュー。映画デビュー作『おいしい生活』と主演作『ハロー張りネズミ』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。その後も、NHK大河ドラマ『利家とまつ 加賀百万石物語』をはじめ、山崎豊子原作のTVドラマ『白い巨塔』、『不毛地帯』など数々のドラマに主演。
【Information】
●『連続ドラマW フィクサー Season1』
監督:西浦正記
脚本:井上由美子
出演:唐沢寿明、藤木直人、町田啓太、小泉孝太郎、要潤、吉川愛、斉藤由貴、駿河太郎/ 西田敏行(特別出演) / 永島敏行 富田靖子 陣内孝則 内田有紀 小林薫
Season1:4月23日(日)初回放送&配信スタート(全5話)
放送:毎週日曜22時[第1話無料放送]【WOWOWプライム】【WOWOW4K】
配信:各月の初回放送終了後、同月放送分を一挙配信 [無料トライアル実施中]【WOWOWオンデマンド】