希望して就いた仕事なのにイメージと全然違う!
そんな経験ありますよね。
“事務”って自分のペースで仕事ができそう。
“外回り”は体育会系の僕にピッタリだ。
“企画職”ってクリエィティブな私には天職に違いないわ!
いいイメージを膨らませて希望して就いた仕事だったのに、実際に働いてみるとなんともしんどい職場で後悔をしてしまった、ということありませんか? もう二度と後悔はしたくない。どうすればいいの?
大丈夫、それ懐ゲーで経験してますよ。
今回ご紹介する懐ゲーはファミコンディスクシステムの名作アドベンチャーゲーム「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者」です。
(※本記事は「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者」のストーリーについて“ネタバレ”を含みますので、今年リメイクされたNintendo Switch版を楽しむ予定のある方はご注意ください)
発売は1988年4月。発売元は良質なゲームを連発している、ファミコンの本家、任天堂です。
アドベンチャーゲームでは「新・鬼が島」という良作を発売しているので期待が持てます。
タイトルが素晴らしい
コマンド選択式のアドベンチャーゲームで、プレイヤーは自分の分身となる少年探偵を操って難事件に立ち向かう、という内容です。80年代のアドベンチャーゲームの王道的システム、設定と言えます。
アドベンチャーゲームのお約束をきちんと押さえたうえで、僕たちゲームキッズの胸に突き刺さる要素がありました。
タイトルが素晴らしいのです。
「ファミコン探偵倶楽部」
なんとも楽しそうではないですか!
この「ファミコン」というワードが正式に商品名に使用されたのは、このタイトルが4作品目です。
それまでに発売されたタイトルは以下の3本。いずれもディスクシステムのタイトルでした。
「ふぁみこんむかし話 新・鬼が島」
「ファミコングランプリF1レース」
「ファミコングランプリ2 3Dホットラリー」
どのタイトルも家族で楽しめる、明るく楽しい作品でした。
「ファミコン」を冠に持つ任天堂発売のゲームときたら、きっと明るく楽しいアドベンチャーゲームに違いない!
そう考えたユーザーさんは多くいたことでしょう。
妄想がパンパンに膨らむ
当時のアドベンチャーゲームは「ポートピア連続殺人事件」「オホーツクに消ゆ」や「探偵神宮寺三郎 新宿中央公園殺人事件」といったラインナップでした。
殺人事件を解決していくという、いわば探偵ドラマをモチーフした作品が主流でした。
それゆえ、ストーリーはハードなもので、大人も満足できるようなシリアスなゲームになっていました。
当時の子どもは背伸びした体験はできるものの、やはり大人向けという印象が強かったのがアドベンチャーゲームというジャンルでした。
そこに登場した「ファミコン探偵倶楽部」に、ゲームキッズだった僕は「ようやく僕向けのアドベンチャーゲームが来た!」と喜々として発売を待ちました。
宣伝のビジュアルを見る限り、なかなかシリアスな事件が起こりそうな雰囲気こそあれど、主人公らしきキャラクターは少年だし、何よりタイトルに「ファミコン」がついていることにいろんな想像を膨らませました。
ファミコンを使って事件を解決するんじゃないか。
普段ファミコンで遊んでいる仲間で結成した探偵団の話じゃないのか。
ファミコンに関する事件が起こるんじゃないか。
これまでにない明るく楽しいアドベンチャーゲーム体験を期待していざゲームスタート。
ファミコン探偵倶楽部 ちょうさかいし!
と、パンパンに膨らませた妄想は、あっという間にぶち壊されます。
おもしろいのは間違いない!でも・・・
待っていたゲーム内容は・・・。
記憶喪失の主人公。
遺産相続でいがみ合う家族。
残酷で奇怪な連続殺人。
そして頼りにしていた大人の裏切り……。
とハードすぎるネタの連発でした。
まぎれもなく、ファミコン最高峰のシリアス系アドベンチャーゲームがここに誕生したのです!
息もつけないテンポ感と想像の上をいくストーリー展開。さらに魅力的なキャラクターと場面設定が没入感を高いものにしてくれます。ファミコンでここまでのアドベンチャーゲームを作ってくれたことに全国のユーザーが舌を巻いて没頭しました。
でも、何かが違うのです。思っていたものと違うのです!
おもしろいのは間違いないのですが、全くもって明るくないし、お茶の間で遊んでいると家族がゲームにひきこまれて会話が止まってしまうのです。
そもそも、タイトルにある「ファミコン」がストーリーに全然出てこないのです!
「ファミコン探偵倶楽部」という団体、組織はゲーム中には出てきません。
主人公が属する探偵事務所は「空木探偵事務所」であり、「ファミコン」でもなければ「倶楽部」でもありません。
タイトルから「元気で明るい少年少女がファミコンを使って難事件を解決するゲーム」を想像していたユーザーの期待は見事に裏切られてしまったのですが。(幸い、このタイトルはいい意味でも裏切りでしたが。)
名前やタイトルだけで勝手にイメージを膨らませると大体、裏切られます。
ファミコン探偵倶楽部を経験しているあなたなら、もうそんな失敗はしないことでしょう。
(文/野中大三)
《PROFILE》
ゲームとプロレスをこよなく愛するコラムニスト兼ドット絵師。電子玩具開発を経て、株式会社カプコンでテレビゲームのプロデューサーを務め、オリジナルタイトルや人気シリーズタイトルのプロデュースを手がける。現在も電子ゲームの開発に携わっている。35年にのぼるプロレス観戦歴とゲームプレイ歴の経験から日本最大のプロレス団体、新日本プロレスオフィシャルサイトでコラム「ゲーム的プロレス論」を連載中。プロレスラーをドットで表現する「dotswrestler」をTwitterで公開中。